テクノアートプロジェクトの取組について

テクノアートプロジェクト

 2012年度からテクノアートプロジェクトは、理工学部、芸術学部などの複数の学部が連携して、ロボット技術を活用し「ロボティク・トイ」という具体的なテーマに沿って、学部横断のチームを結成し、企画・作製・プレゼンテーションまでの過程を実行するプロジェクトです。本年度のテーマは、「家具」に「先端技術」を適応して、既存の家具の概念を超えた、便利で、面白い、新感覚の家具を開発することを目標にプロジェクトを実施しました。

 

デザイン思考×工学で新価値観を生み出す

 芸術と工学は、一見すると別々の進化を遂げていると感じるかもしれません。しかし、世の中のプロダクト(製品)を見てみると、洗礼された形状や色などのデザインという殻の中に、そのデザイン性を損なわず、かつ、必要な機能(技術)が凝縮されています。一つ失敗例を出してみましょう。近年、自動運転車の話題を耳にすることが多くなっています。自動運転車は、様々な手法を用いて自動車の周囲の歩行者や他車、障害物などを検出し走行しています。もし、自動走行のために屋根の上に大きく目立つカメラなどが設置されていたら、どうでしょうか?その様な車を買って、乗りたいですか?多くの一般ユーザーは、デザインが良くない、欲しくないなどと考えると思います。つまり、理工系の学生が行うものづくりでは、機能は十二分に実装できたとしても、デザイン思考が欠けているため新しい価値観を生み出すことが難しいです。

 デザイン思考とは、従来の手法では解決できなかった社会の課題を解決するため、デザイナーがデザインを行う際に用いる考え方や発想の手法を発展させ、共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイピング、テストを繰り返してソリューションを生み出す思考法です。このデザイン思考については、本プロジェクトに参加している芸術学部生活環境デザイン学科プロダクトデザイン専攻の学生は、様々なカリキュラムの中で学んでいます。

 理工学部の学生が本プロジェクトに参加することで、各学科の専門分野の知識量を上げ、技術を身に付けることができる、さらに、デザイン思考という新しい思考法を吸収することで、ただ単純にデザインや機能が優れたプロダクトではなく、新しい価値観を伴ったプロダクトを創造することが可能となります。芸術学部の学生にも本プロジェクトに参加することで得るものがあります。デザイン思考では、共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイピング、テストのループを回し、より良いプロダクトを目指して行きます。芸術学部でも様々な工作手法について学びますが、工学をベースとする先端技術については学ぶ機会は少ないです。そのため、斬新なアイデアを創出できたとしても、それを形にすることが困難です。しかし、理工学部の情報科学科、機械工学科、電気工学科の各専門を学んでいる学生の知恵や技術を借りることで、実働するモデルを作製することが可能となります。デザイナーにとって自分の思いが具現化され世に生まれることは、成長を感じ、更なるステップへの原動力となるでしょう。

 上記の思いがあり、理工学部電気工学科では数年前から鴈野先生、貞方先生がプロジェクトの参加し、電気工学科に在籍するものづくりなどに興味がある学生や学友会サークルである電気工学研究部(電気以外にも機械や情報、他学部の学生も活動している)の学生を集め指導しています。

 

テクノアートプロジェクトの面白さ

 身の回りにあるプロダクトを作り上げるには、様々な分野の知識や技術が必要となっていることは言わずと知れたことです。一つ例としてスマートフォンを取り上げましょう。電気工学科の学びで、スマートフォンの頭脳であるCPUなどの半導体デバイスやWi-Fiや5G通信に使う無線などの設計の基礎をマスターすることができます。しかし、CPUはコンピュータの一部であり、情報科学科で学ぶプログラミングやアプリケーション開発、ネットワーク設計等の知識が無ければ、ただの石です。さらに、機械工学科の学びである熱力学を用いることで、発熱した半導体デバイスの放熱を適切に行い熱暴走を防ぐことができます。また、材料工学や生産技術を駆使することで理にかなったスマートフォンの筐体や各種部品を作り出すことができます。理工学部では、情報科学、機械工学、電気工学という分野を軸に各学科で専門教育を受けます。一方で、上記の例の様に、現実社会では、お互いの学びが複雑に関係しています。将来、開発者や技術者、研究者となる学生は、そのことを見据え、自身の専攻分野のみならず他分野の様子も知ることが重要となっています。

 電気工学分野のベクトルでだけで生まれるプロダクト(線)は大したことはありません。しかし、電気工学分野と別の方向を向いた機械工学分野の内積は、新たなプロダクト(平面)を作り出すことができます。機械工学と情報科学、電気工学と情報科学も同じです。そして、3分野のベクトルのスカラー三重積は、新たなプロダクト(空間)を作り出すことができます。さらに、芸術学部の持つデザイン思考を掛けることで、空間は膨張し、「デザイン思考×工学で新しい価値観を生み出す」ことができます。これがテクノアートプロジェクトの面白さにつながるところです。

 本来なら理工学部3学科の学生が1チームに在籍する様にチーム編成をすべきでしたが、昨年度までは、基本的には芸術学部の学生1名と理工学部の1学科の学生2名程度でチームを組んでいました。それでは、2学部4学科の相互作用は活性化しないと考え、本年度から芸学生1名 + 情報科学科、機械工学科、電気工学科の学生の混成チームを数チーム結成しました。

 

企画プレゼンでチーム結成

 テクノアートプロジェクトは、2022年10月7日の企画プレゼンで本格的に動き始めました。企画プレゼンでは、芸術学部生活環境デザイン学科プロダクトデザイン専攻の23名が各自で考えた「家具」と「先端技術」を融合した家具のコンセプトやアイデア、こんな感じの稼働モデルを作って欲しいなどを理工学部の学生に向けてプレゼンテーションを行った。プレゼンテーション後に、芸術学部の学生1名と理工学部の数名の学生で1チームとし、計23チームを組んでいきます。理工学部の学生には、自分たちの持っている知識や技術、どのプレゼンが気になるかなどを話し合い、担当する内容を決める時間を設けています。夜も遅くなった8時ごろに、各チームで、見ず知らずの芸術学部と理工学部の学生が初顔合わせ、簡単な自己紹介や連絡先の交換、今後のミーティングの日程調整等を行いました。

 

ミーティング

 ここでは、クローゼットとUFOキャッチャーを組合わせた作品「clotcher」の作製を行った芸術学部の学生と理工学部 機械工学科と電気工学科のチームの作品完成までの道のりを紹介します。チームで週1回ペースでメンバーが集まってミーティングを行います。芸学生のコンセプトやアイデア、実現して欲しい機能に対して、理工学部の学生が具体的にどの様に作製するのか説明を行います。これまでに学んだ内容をベースに考え、また、学んでいない内容を勉強することも多くあります。この経験が将来、技術者や開発者になる時に役に立つでしょう。ミーティングは、お互いの主張を理解し、改善案を出し合い、より良いプロダクトを作り出すためには重要となります。お互いの専門分野の話を分野の異なる学生に伝え理解してもらう必要があることからコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力の向上にもつながります。10月中には、モデル作製に移れるように、システム設計等を念入りに行っていきます。

 

3Dモデリング

 芸学生の描いたスケッチを基に、機械工学や電気工学科の授業で習う3D CADソフトであるFusion 360で3Dモデルを作製、可動部の動きの検証など具体的な設計を進めて行きます。今回は、家具がテーマであったため、木工作業を行う必要があり、学生は図書館で借りた本を見ながら引出などをどの様に作製したら良いか検討を行いました。

 

木工作業

 木工作業については、電気工学科の演習室やプロダクトデザイン専攻の木工房やMP工房という専用工具や機械が揃った部屋を使い加工と組み立てを行いました。

 桐集合材をホームセンターで購入し、モデリングデータから各板の図面を出して、板に印をつけ、テーブルソーや帯鋸で切断します。

 

 引出は、ボンドで各板を組合せて、化粧板の持ち手の部分はルーターを用いて引き出しやすいようにR加工を施しました。

引出が、きっちりと収まるようにベルトサンダーで削り微調整し、スムーズに開閉することができました。

 

 扉板と側面板、天板と背面板にスライド丁番を取付て開閉ができるようにしました。

 

UFOキャッチャーの機構作製

 初期の段階では、UFOキャッチャーのアームを前後左右に動かす機構は、ステッピングモーターとタイミングベルトを使い駆動させる予定でした。しかし、試作機をテストしてみると想定以上に調整が難しいことが判明し機構の見直しを行いました。その結果、前後方向の移動はDCモーターにタイヤを取付て、レール上を移動できる機構としました。また、左右方向の移動にはDCモーターとタイミングベルトを組合わせた機構としました。

 アームの作製については、先に示した3Dモデリングデータより、レーザー加工機でアクリル板を切り抜いてパーツを作製しました。レーザー加工機は先ほどの移動機構のアクリル板で作製したフレームにも用いています。

 切り出した各アクリルパーツを接着剤を使って固定します。また、リンク機構の部分にはボルトとロックナットを取付け、リンクが可動するように調整しました。

 上記の写真は、アーム部を組み立てて、昇降用のプーリに巻き付けた釣り糸を手で持って吊り下げている様子です。3Dモデリングでは、吊り下げた時に、重心が偏らないように、DCモーターなどの配置を対称的にするなどの設計を行っていました。実際に、吊り下げた時に、狙い通りにバランスがとれていて嬉しかったです。

 3本のアームの回転や開閉用にDCモーターの軸に取り付けるギアは、3Dモデリングを行い、3Dプリンタで自作したものを使用しました。昇降用のプーリも同様に3Dプリンタで造形しました。

 

 子供が洋服を引出しに入れた後、自動的に洋服を内部に落とすための機構を組んでいる様子です。

 

マイコン制御装置の作製とプログラミング

 XY移動機構に使用するDCモーターの制御やジョイスティック、押しボタンなどの入力処理を行うために、M5Stamp-C3というマイコンモジュールを使用している。このマイコンモジュールには、Wi-FiやBluetoothの無線モジュールが搭載されている。本作品では、ジョイスティックと押しボタン処理部、XY移動制御部、UFOキャッチャーのアーム制御部にマイコンモジュールを搭載している。データのやり取りは、ESP-NOWという無線通信規格を用いた。理由は、配線の数を減らし、デザイン性をよくするためです。上記の写真は、XY移動制御のためにユニバーサル基板に各種電子部品をはんだ付けして作製した制御基板です。

 

 電子回路の開発初期段階では、電子部品の端子やワイヤーを挿し込むだけで回路動作を確かめることができるブレッドボードを使うことが多いです。上記の写真の左側がブレッドボードで組んだ回路です。本回路は、クローゼットの扉の開閉に応じて内部のLED照明を点灯させるものです。ブレッドボードでの動作検証が済んだら、ユニバーサル基板に電子部品をはんだ付けして基板を作製します(上記写真の左側)。もしくは、電子基板作製用のCADを用いてパターンデータ等を作製し、基板製造メーカーでオリジナル基板を作ることもあります。下記の写真は、別のチームで作製した基板です。ブレッドボードでの回路作成は楽で良いですが、装置の中に組み込んで、長時間使用することを考えると、接触不良やワイヤーが抜けたりなどの問題が生じやすくなり、安定した動作が難しいです。なので、はんだ付けにチャレンジしてオリジナル基板を作ってみましょう。

 

 マイコンは、人間でいうとこの頭脳として様々な計算を行います。マイコンに、どの様な計算を行って欲しいかを伝えるのがプログラムです。今回は、C言語(C++)で制御プログラムを組みました。プログラミングは、電気工学科の1年生でも勉強します。プログラミングを巧みに行えると、自分の思うように装置の動きをコントロールすることが可能となり、ものづくりの幅を広げることができます。

 

 上記の動画は、ジョイスティックの入力状態を判断し、XY移動機構の前後に移動するための左右のタイヤの回転制御、左右に移動するためのベルトの回転制御のテスト時の様子です。ものづくりでは、単体テストという、構成要素ごとに仕様通りの動きになっているかテストを繰り返しながら作製を進めて行きます。この手順で進めることで、複雑なシステムでも、開発の後戻りやエラーの原因追及が困難になる場面を避けることができます。

 上記の動画は、UFOキャッチャーで洋服を指定回数取ることができた時に、自動的にご褒美が入っている引出しを開ける仕組みの動作確認の様子です。仕組みは、マイコンモジュールから引出しの後ろに設置したラジコン用のサーボモータにPWM信号を送り、突起を回転させて引出しを押し出しています。

 

 上記の動画は、UFOキャッチャーで洋服を掴むクレーン部の開閉タイミングや昇降速度などの調整を行っている様子です。先に示した、プログラムは、洋服を掴む動作を記述しています。UFOキャッチャーがテーマの作品なので、3本のアームの回転速度や開閉速度、降下位置などをどの様にすると子供に楽しんでもらえるか調整を進めていました。

 

中間発表会

 11月25日に、テクノアートプロジェクトの中間発表会を学内で行いました。発表内容は、デザインや機構の設計状況などの進捗報告を行いました。中間発表会で、芸術学部の先生からアドバイスを受けて作品作製に反映しました。

 

「clotcher」の完成

 

 クローゼットの扉を開いたら洋服を掴むUFOキャッチャーがあらわれる「clotcher」の完成した姿です。中に入れている小さなドレスは、100円ショップで購入したお人形の衣装を使っています。以下の動画は、実際にジョイスティックやボタンを操作して、ドレスを取る様子です。

 

 後に紹介する九産大プロヂュース展のために作成した「clotcher」のプロモーションビデオです。

 

最終発表会及び展示

 

 2月8日に、六本松の福岡市科学館で最終発表会を実施しました。当日午前中に、大学から福岡市科学館にトラックで輸送し、発表ステージの前に作品を展示しました。発表は5分という非常に短い時間の中、作品のコンセプトやアイデア、遊び方、各種仕組みやシステムについての説明を行いました。発表会では、大学の教員、外部審査委員として福岡市科学館の館長、企業の方にも聴講して頂き、発表内容の審査が行われました。その結果、「clotcher」のチームが優秀賞を受賞することができました。10月から始まったプロジェクトで、4カ月程度しか期間が無い中、お互いが協力し合い、作品を作れたことは良い経験になりました。

 左から理工学部電気工学科、芸術学部生活環境デザイン学科プロダクトデザイン専攻、理工学部機械工学科、理工学部電気工学科の学生です。

 

 

 発表会後は、5階のオープンラボというスペースで、作品の展示・説明会を行いました。多くの家族連れのお客様、特に子供たちに「clotcher」で遊んでもらえました。お越しいただきありがとうございます。

 

九産大プロデュース展での展示

 2月23日から26日まで天神のソラリアプラザ1階で九産大プロヂュース展が開催されました。テクノアートプロジェクトで生まれた様々な作品の中から計11作品を展示・説明行いました。展示場所が、天神の人通りの多いソラリアプラザということもあり、様々な方に作品の説明をさせて頂きました。展示期間中、女の子が何度もUFOキャッチャーで遊んでくれていたのが印象的でした。実際に、作品を触って遊んで頂け嬉しかったですが、あまりにも人気で壊れてしまわないか冷や冷やしながら見守っていました。

 

参加学生の感想

 「clotcher」を製作した学生の本プロジェクトに参加してみての感想等についてご紹介します。

〇芸術学部生活環境デザイン学科プロダクトデザイン専攻の学生(2年生)

 私たちのチームは、クローゼットとUFOキャッチャーを掛け合わせた家具ロボット、’クロッチャー’を制作しました。理工学部の方にデザインと機能を提案し、それを基に何度も会議を行い、デザインや内容の修正を重ね、最終的に納得のいく家具ロボットを制作することが出来ました。製作途中で何度も課題を発見しましたが、その度に意見を出し合い、想像よりもより良いものを作ることができました。とても貴重で、良い時間でした。

〇理工学部機械工学科の学生(3年生)

 学部や学科を超えてプロジェクトに取り組むことで、知らない部品の名称や複雑な機構の開発、設計・製作をすることができ、知識も経験も増やすことができました。完成した作品をプレゼン・展示することで達成感を得ることができます。また、展示中一般のお客さんに興味を持ってもらい、説明することで私たちが完成させた作品に誇りを持つことができ、自信になります!

〇理工学部電気工学科の学生(1年生)

 私は1年生での参加ということもあり、先輩方の足を引っ張らないか不安でした。ですがミーティングで意見を出し合い、計画を練っていく事で完成のイメージ像が掴めるようになり、不安が軽くなりました。いざ作業を進めると計画通りに行かなかったり計画が甘かったりと、考えるのと実際やってみるのとではだいぶ違ってくることが実感でき、改善点をいくつか見つけることが出来ました。

〇理工学部電気工学科の学生(4年生)

 テクノアートプロジェクトは、他学部との協力することで、普段同じ学部で一緒にいる周りの仲間とはまた違った考えを持った仲間とともに作品を作成する楽しさがあります。互いにアイディアを出し合い話し合うことで、より良いものを作り出します。互いに0からの作品に対して、アイディアを元に完成させていく難しさ、楽しさを体験することができました!!テクノアートプロジェクトの経験は、就職活動でも役に立ちました。エントリーシートや面接で、企画や実施内容、設計した内容などは、企業の採用担当者の方に興味を持っていただけました。

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