九州産業大学シニア・アート・アカデミア

平成20年度前半

実施期間:
平成20(2008)年9月20日(土)〜
平成21(2009)年1月26日(土)

6回目となる平成20年度は、現在地域の美術館や博物館で求められている、作品ガイドボランティア養成の一環として、作品制作から展覧会の企画・運営までをトータルに学習。
絵画の1つである日本画を実際に制作しながら、その技法や作品の取り扱い方・展示の仕方を学び、その後展覧会の企画、会場への作品搬入から展示作業、来館者への作品解説などを行う実践形式の講座。

第1回目 開講式・制作1(2008.09.20)

九州産業大学美術館では、今年も九州産業大学シニア・アート・アカデミアが開講されることとなり、受講生12名と講師4名が式に臨みました。
本年度は、昨年度実施の際に人気だった日本画コースを開講。
開講式が終了すると早速、第1回目の講座がスタートしました。

受講生の半分以上は日本画初体験。
机の上いっぱいに広げられた様々な日本画の道具に、数人の受講生からは早くも「出来るかしら…」と不安げな声が漏れてきました。
しかし、講師よりひとつひとつ道具や作業工程の説明をうけ、使い方も使うタイミングちゃんと教えてもらると分かるとちょっと安心した様子に。そして、同じように初めてだった昨年度の受講生が展覧会を成功させたという話を聞くと、不安気な受講生の表情は一変。
「昔から憧れていた日本画、今回頑張ってみよう!」と改めて気合いをいれ、資料に目を通す姿を見る事ができました。

道具説明のあとは、宿題として出されていたスケッチを講師が受講生一人一人チェックし、今度制作を進めていくためのアドバイスが行われました。
受講生はこのスケッチをもとに約半年かけて作品制作を通じ、基本的な技法から作品の取り扱い方法や展示方法などを学んでいきます。
受講生は12月の作品展覧会実施と解説ボランティアデビューに向けて、これから約半年間、作品制作を通し基本的な技法などを学んでいきます。

第2回目 制作2(2008.09.27)

今日は、作業に取りかかる前に『日本画』というものがいつ頃誕生したのか、少し歴史の勉強を行いました。
狩野永徳など、皆さんにも聞き覚えるのある画家を中心に、実際に画集を見ながら歴史的背景を学習していきました。少し難しい話ではありましたが、日本画の背景を知ることで、より油絵(洋画)との違いや日本画の特徴を知ることが出来たのではないかと思います。

講義が終わると日本画制作の第一歩『水張り』に挑戦。
水張りとは、和紙(今回は鳥の子という紙を使用)をベニヤに貼る作業のことで、これに絵を描くことなります。(油絵でいうキャンバス)
まずは、講師の実演からスタート。
受講生の皆さんがとても真剣な表情で見つめるので、少し緊張美味の講師でしたが、大きなハケを巧みに操りあっという間に出来上がり。あまりにきれいな仕上がりに「おおー」と受講生から歓声があがります。

さぁいよいよ受講生の番です。
講師の実演をメモを取りながら真剣が表情で見ていた皆さんですが、実際にやってみると大きなハケが思った以上に難しいようで、あちらこちらから「先生!」と助けを求める声が聞こえてきます。絵の土台になるのでチェックも厳しく、講師から「大丈夫です」と声がかかると受講生はホッと安心した表情を浮かべていました。
しかし、『水張り』だけではまだ絵は描けません。このままだと、紙が絵の具を吸ってしまうので、絵の具が紙にのるように『ドーサ引き』という作業を行い、これでようやく絵を描く準備が完了です。
あまりの工程の長さに作業が一段落すると、受講生は日本画がこんなに大変だとは…」と思わず座り込んでいました。

第3回目 制作3(2008.10.11)

今日の工程は『骨描き』です。
『骨描き』とは、パネルに写した下図(下書き)の線を墨でなぞることを言います。

線をなぞるだけという事で、作業を始める前の受講生の表情はいつもより少しリラックスした表情。しかし、講師の説明を聞いていくうちにその表情はだんだん不安げな表情へ変わっていきました。
受講生を不安に陥れたのは『墨』。
普段『墨』を使い慣れていないため、『太さが均一な線を描く』ということもなかなか上手く出来ません。お手本を見せてくれた講師は、髪の毛を表現する細い線も顔の輪郭となる太い線もさらりと描いてみせますが、受講生がやってみるとガタガタ。
この墨の線は絵の具を塗り重ねていった時にその効果が出てくるため、日本画では大切な要素となります。
そのため、さっそく『墨で線を描く』練習がスタート。
「手首だけではなく腕から動かして!」と講師からアドバイスを受けひたすら線を描く練習。
練習すること数十分、いよいよ自分の作品の『骨描き』です。
作品と墨を机に上におくと、目を瞑って深呼吸。精神を統一し筆の先に意識を集中させて作業に挑む受講生。
アトリエがしんと静まりかえり講師やスタッフも思わず息をとめて見守ります。
時々「あ…」という声が聞こえてきましたが、ほぼ全員がクリアし、次回ついに彩色の工程に進みます。

第4回目 制作4(2008.10.25)

今回から工程はいよいよ『彩色』です。

日本画にはいくつか絵の具がありますが、『水干絵の具』からスタートします。
まずこの水干絵の具の黄土を画面全体に塗ります。
これは、これから塗る他の絵の具や画面の発色を良くする効果(講師曰く、化粧下地をイメージして下さいとのこと)があるため、全員が共通で行う最初の彩色となります。

ただ、『彩色』と言っても、日本画の『彩色』は油絵や水彩画とは少し違うようです。
日本画は基本的に重色と言って、何色もの色を重ねて最終的に見せたい色(仕上げたい色)に仕上げていきます。

なぜ色を重ねる事で見せる事が出来るのか?
それは、日本画の絵の具の特徴にあります。
日本画の絵の具は色だけではなく粒子の細かさによっても分けられ、基本的に粒子が細かいものから塗っていきます。そのため、一番上の絵の具は下の絵の具より粒子が粗いので粒子と粒子のすき間から下の絵の具が見え、深みのある色が出来上がります。

念願の彩色ですが、この「重ねて最終的に見せたい色になる」という日本画独特の表現技法が受講生の前に壁となって立ちはだかりました。
最終的な色は決まっていても、受講生には『その色にするためにどんな色をどれだけ重ねたら良いのか』というところが分かりません。これを考えるには、実は12色相環や補色・同系色など色に関する知識が必要となります。
講師が実演しながらこの補色や同系色の説明をするも、自分の絵になると受講生の手は筆を持って停止。特に補色の感覚がうまく掴めないようで「赤にしたいのにどうして青をのせるの?」と教室中に?が飛び交っていました。

『彩色』は、経験(慣れ)と自分の感覚で作業を進めていく事しか出来ないので、講師陣は受講生から質問の手が上がるとすぐに駆けつけ、じっくり説明を行い皆さんの制作をサポートしながら進みました。

第5回目 制作5(2008.11.15)

前回から制作は『彩色』の工程に進んでいます。

「重ねて最終的に見せたい色になる」というのが日本画独特の表現技法です。
コツをつかんで筆の動きは前回よりスムーズになってきたもの、去年経験した受講生でさえ「また同じところで壁にぶつかりそうです」という言葉がもれてきます。
それほど、この彩色は重要な工程なのです。
そうした受講生には、講師が画集や実演を見せてアドバイスを行い講座が進んでいきます。

さて、今回は『岩絵の具』という新たな絵の具の説明も行われました。
前回から使用している『水干絵の具』で、ある程度彩色を進めたあとこの『岩絵の具』で彩色を行います。使い方は『水干絵の具』と同じですが、水に溶けないという特性があるため、間違った方法で使用するとせっかく完成した絵が割れたり絵の具が剥離したりするという事で、講師の説明を聞きながら真剣にメモを取っていました。

5回目を迎えて、講座の雰囲気も少し変化してきました。
質問をする回数が少なくなり、黙々と絵に向かう姿や自分の絵を遠くから眺める姿、自分から色見本で色彩をチェックする受講生の姿が多くみられるようになりました。
作品も、黒い墨の線だけだった画面に赤や青などの彩色が行われ徐々に日本画雰囲気が表れてきました。

第6回目 制作6(2008.11.29)

今回のシニアは、大学2年生と同じアトリエでの実施となりました。
そして、急きょ本年度の講座開講にあたりご協力いただいた本学芸術学部美術学科の白井教授に、受講生の作品を見ていただける事になり、いつもより緊張気味でスタートしました。

さて、本講座は制作だけではなく美術史(作家紹介)の講義の時間もあります。
こちらは、展覧会の会場で来館されたお客様に技法だけではなく日本画の歴史なども説明出来るように、という事で講師手作りの資料を元に講義が行われています。
そして今日は、全員が彩色の工程に進んだのをうけて、制作の流れや絵の具の特徴・筆の使い方などをもう一度復習するために、実際にプロが制作している様子のビデオも鑑賞しました。

制作はこれから講座の最後まで彩色となります。
絵の具を塗り乾かしてまた塗るという作業を繰り返しながら、作品としっかり向かいあい彩色の作業を進めています。
そして、本日は白井教授から今後の制作進め方についてアドバイスが行われました。
一人一人じっくりとアドバイスをしていただき、受講生の表情も一段と引き締まったように見えました。

第7回目 制作7(2008.12.06)

本年度のシニアも今回で7回目を迎え、いよいよ折り返し地点に突入です。

さて、今回の講座は初めて日本画に挑戦する方とこれまでに日本画を経験した事がある方用の2コースで実施しています。
その経験者コースの受講生は少し難しい技法にチャレンジしています。
今回、チャレンジしたのは『金箔』。
前回の講座中に金箔を貼り、今日の講座で余分な金箔を払い落とすという2週間かけての作業となりました。

屏風などの作品に数多く登場する『金箔』。
その本物が目の前にあるという事で他の受講生も興味津々。
多くのギャラリーが見つめる中、まずは講師が一枚金箔貼りを披露しました。
人間の息など、ちょっとした風でも飛んでしまうくらいに薄い金箔を、ピンセットを匠に操りながら皺1つなく画面に貼っていく姿に、ギャラリーからは思わず拍手が上がりました。
講師の次はいよいよ受講生の番。
恐る恐る作業を行いますが、あっという間に風にあおられて皺が出来たり破れたり…となかなか見本通りいかず受講生も思わず苦笑い。それでも、講師陣から励まされ何とか予定枚数を張り終わると安堵の笑顔がこぼれました。
そして本日、一週間乾燥させて作品から余分な金箔を払い落とすと、絵の具の金色とはひと味違った輝きが表れました。
この瞬間、不安げだった受講生の表情もパッと明るい表情に。
余分な部分を払い落とした事によって作品の表面も整い、心配していた破れ等も「これなら大丈夫!」と初の金箔貼りは成功。

このように、受講生の作品は着実に完成へと向かっています。

第8回目 制作8(2008.12.20)

今日は、2008年最後の講座です。
受講生の皆さんも、絵の具の溶き方や筆の使い方等すっかり板についてきました。

8回目をむかえ、講座の様子も最初の頃と比べると少し変わってきています。
まずは、講座中のアトリエの様子です。
シーンと静まりかえり、筆の音だけが聞こえてくるという時間が多くなってきました。
そして、講師への質問内容。
配色の行程に入った当初も、講師への質問は「先生、次は何の色?」というような、講師の作品を受講生が代わりに制作しているように感じてしまうものが多く、「皆さんの作品なので、好きなようにして良いですよ」と講師が声をかけても、「分からないから先生の言う通りに…」というやり取りがアトリエのあちらこちらで見られました。
しかし、最近の質問内容を聞いてみるとその内容は「こういう絵にしたいと思うけれど、どうしたら良い?」という表現方法を尋ねるものに変化していました。受講生の中で、“きれい”・“完璧”・“素晴らしい”作品を作るという事より、“自分の描きたい絵を描く”という思いが大きくなってきたからだと感じています。
配色なども、まずは自分で考え、その後で講師に確認をするという受講生が増えてきました。

次回の講座は1月24日です。制作だけでなく修了作品展の準備もスタートします。

九州産業大学シニア・アート・アカデミア