福岡県警察で心理カウンセラーとして活躍した経歴をもち、臨床心理学科で「司法・犯罪心理学」を担当。また、「フォーカシング」という心理療法の研究と普及にも努める森川教授に、私たちの日常にも役立つ“心理学の学び”についてお話を伺いました。
森川教授のこれまで
警察で被害者支援を行い気づいた
研究者になることの意義
私が小学校低学年の頃、担任の先生が勉強が苦手な2人の児童に「補習をする」と言い出したことがありました。クラス中が、「勉強で居残りなんて、かわいそう」とザワつきましたが、その2人は先生の思いを素直に受け入れたんです。また、中学生の頃には、先生がよく非行生徒たちを叱責していましたが、先生の言葉が生徒に“届く”かそれとも“届かない”かは、クラスメートとして瞬時にわかりました。自分の声が届かないとき、大人は子どものせいにしがちなのですが、届かないのは届かない理由があるんですよね。こうした経験を通し、人が誰かに何かを提供するとき、“何を提供するのか”以上に大切なことがあると知ったことが、心理学に興味を持ったきっかけです。
その後大学は教育学部に進学しましたが、そこは教員養成だけが目的ではなく、心理学も学ぶことができる場所でした。実際、心理学に足を踏み込んでみると「人が心理的に変わる」おもしろさに気づき、より学びを深めるため大学院に進みました。世の中はちょうどバブルで景気が良いのに、「お金がない」と言いながら自分のやりたい研究や心理臨床に没頭するストイックでユニークな先輩たちがいる研究室で育てられたことが、今につながっていると思います。
卒業後は福岡県警察に心理カウンセラーとして勤務し、被害者支援を担当していましたが、その経験によって「社会に役立つことを届けるには根拠がいる。それは、中立な立場で研究をしてきた学者にしかできない」と気づき、大学教員として研究を続ける道を選びました。
心理療法「フォーカシング」
自分のからだの感覚に注意を向ける
心理療法「フォーカシング」を研究
担当授業の「司法・犯罪心理学」のほか、心理学に関して、その時々で関心をもったテーマや外部からの依頼案件について研究しています。これまで「謝罪の研究」や「嘘の研究」なども行ってきましたが、大学院時代からずっと続けているのが「フォーカシング」という心理療法の研究。自分が今、どのような実感をもっているか、からだで感じられる感覚に注意を向けて把握していく療法で、これを個々人が使えるようになる方法およびフォーカシングが日常化した人の特徴について研究中です。
例えば、「今日の休み時間をどう過ごそうか」「ここで意見を言おうか、言うまいか」など、人は何をするにもある程度、自分の気持ちや考えを捉えようとしています。フォーカシングはそこに時間をかけ、自分の気持ちに直接「どんな感じかな」という問いを投げかけ、感覚が浮かび上がってくるのを待ちます。出てくる感覚は曖昧で掴みにくいことが多いのですが、さらに時間をかけると、その感覚が少しずつ変化し、自分にとってどのような意味をもつのかが見えてきます。
自分の気持ちやからだの状態に目を向けるには、ありのままを受け入れることが大切なのですが、心や体の不調があると、自分自身を責めてしまったり、「早く治ってほしい」と焦る気持ちが出てしまったりします。それは、例えていうならうつ病の社員に「早く出社しろ」「すぐ治らないなら退職しろ」という態度を自分に向けているようなもの。フォーカシングでは、そのベクトルを切り替えて、自分が苦しくない方法で今の気持ちやからだの感覚に注意を向けながら、少しずつ楽になるきっかけを見つけていくことができます。
大学での教育・研究活動に加え、日本フォーカシング協会という愛好家団体でボランティアをし、普及活動も行っています。協会に所属しているのは、専門家だけでなく、心理学を学んだことのない方も多く、職業もバラバラ。ペアになってフォーカシングを実践してみるなど、自分たちが楽しみながら学びあう活動もしています。
今後の活動・目標について
自分の内側の感覚との付き合い方を
子どもたちにも知ってほしい
多くの方の日常に役立つフォーカシングですが、実践にはコツがあり、その発信がまだできていないことは課題のひとつです。自分の中の微かな感触から痛みまで、さまざまな感覚には意味があり、付き合い方があると感じられるようになると、人間関係においても受容的な関係を志向する傾向が出てきます。こうしたことを研究・実践していくことで、一人ひとりの安らぎが増し、人間関係の調和につながるはずです。それはやがて活力と平和が両立する社会…、お互いに他の人を生かしあえるような世界へとつながっていくと信じています。
フォーカシングに興味を持たれた方は、まずは「自分への声掛け」から試してみてください。悲しいことが起きたときは「ちょっと残念に思ったね」とか、「今、早く帰りたいと思ってるね」とか、細かいことにも目を向けて自分自身と共感していくと、からだが緩んで少し楽になると思います。また、本学臨床心理センターでは、公認心理師・臨床心理士が、心理学やカウンセリングの専門的な知識・技術を生かし、地域住民のメンタルヘルスの向上を図るとともに、心理支援に関わる人材の育成にも取り組んでいます。年間を通して、体験型のグループプログラム「こころのウェルネスプログラム」を実施しており、こうした心のあり方や向き合い方について、実践的に学ぶことができるので、興味のある方にはぜひ参加してほしいですね。
今、目標にしているのは、自分の内側の感覚との付き合い方に関する本を執筆し、小学校の図書室に置いてもらうことです。子どもたちももちろん日常の中でモヤモヤする気持ちを抱えているはず。フォーカシングをやさしい言葉で紹介し、子どものうちから身につけてもらえたら、自分自身との、そして人との向き合い方や関係が変わっていくはずです。
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- Q.趣味はなんですか?
- 植物に触ること
根っこがあるもの(例えばネギなど)を
植えずにはいられません。
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- Q.好きな食べ物は?
- ぎんなん、ピーマン、ゴーヤなど、
変わった風味のもの。
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- Q.座右の銘を教えてください
- 邪魔しなければ育つ
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- Q.「九産大生」の印象は?
- 活力
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子どもたちが
飢えない社会をつくる -
九州の農業を
ロボットの力で支える -
海洋プラスチックについて考える
”きっかけ”を与えたい -
写真を通じて
人と場所のつながりを探求する -
食の安全・安心を追究し、
食品ロスを減らしていきたい -
新しい冷媒技術で
未来の人類を救いたい -
快適で健康的な
居住環境をデザインする -
スポーツを続ける
「明確な効果」を広めたい -
個人が、楽しみながら
「水害対策」を行う時代に -
ラーメン店のおいしさを
お土産品でも再現したい -
日本の観光を
もっとおもしろく変えていく -
暮らしも人間性も豊かになる
「言語学」の魅力 -
「工作」と「遊び」の力で
地域の課題を解決したい -
新興国の経済研究で
日本の経済を輝かせる -
九州から世界への挑戦を
研究を通して応援したい -
ICTを活用し
地域の公共交通の利便性を
高めたい -
子どもたちの生きる力を育み
世界から貧困をなくしたい -
イラストレーションの力で
人と人の心の交流をつくりたい -
建築の可能性を追求し
100年後の文化として残したい -
離島航路の調査・研究で
離島の人々の暮らしを支えたい -
「人間の“生”」を大切にできる
教育者、社会人を育成したい -
“内なる感覚”に気づく心理療法「フォーカシング」
心を整え、よりよい社会へ