イラストレーションの力で人と人の心の交流をつくりたい
田(チョン) スンヒョク 教授
芸術学部 ビジュアルデザイン学科

 多種多様な情報を、わかりやすく伝えるのがイラストレーション。その根底には「コミュニケーション」があり、つくり手と受け手の心の通い合いを目指すものだと伝える田教授に、学生たちと共に取り組む研究についてお話を伺いました。

田教授のこれまで

サブカルチャーに魅せられ日本へ
ゲームからイラストレーションの研究に進む

 韓国・ソウル出身の私にとって、高度経済成長期の1980年代はとてもカラフルで刺激にあふれていました。88年のソウルオリンピックを機にファッションや文化が大きく変化し、国内外のサブカルチャーに魅了されたのもこの頃です。デザインを志した大学時代は、美術系の塾講師もしながら、デッサンや平面構成などデザインの基礎をしっかり身につけました。大学卒業後はゲーム関連のデザイナーとして就職する予定でしたが、経済危機による大不況の時代に突入。そこで、研究の道であれば、前向きに生きていけるのではと考え、いろいろなご縁に導かれて福岡へやって来ました。
 日本語を習得した後、九州産業大学大学院に入り、恩師との出会いによってビジュアルデザインの道に進もうと決めました。多くの人に支えられつつ、夢に向かって知識や技術を磨く実践の大切さを実感し、どんな時でも「楽しむ」姿勢こそが原動力になるのだと確信しています。

研究について

イラストレーションがつなぐ
世代を超えたコミュニケーション

 イラストレーションは、絵本やポスター、パッケージなど私たちの生活に溶け込み、サブカルチャーとしても定着しています。しかし、その本来の目的が「コミュニケーション」であるということは曖昧になりがちです。ただ好きに描くのではなく、その先の人との交流を意識してどう作るか。私のゼミでは、文献や作品事例を調べた上で自ら制作し、展示やワークショップといった実践の場での学びを大切にしています。
 その一つが、2025年に開催されたイベント『八女幻灯夜』での、伝統的な八女提灯とのコラボレーションです。私が描いた提灯が会場で灯されるなか、学生たちと提灯作りワークショップを担当しました。簡単な材料を使い、大人も子どもも夢中になって「楽しく作る時間」を共に過ごすことで、学生たちはコミュニケーションと表現のつながりを体感できたようです。実は、「illumination(照明)」と「illustration」は、「照らす」という同じ語源をもつ言葉。自分の作品が誰かのための光になる、というとても印象深い体験でした。

 また、各種イベントで実践する似顔絵ならぬ「違顔絵(ちがおえ)」コーナーもユニークな企画です。「どんな動物が好きですか?」といった会話をしながら、自由でユーモラスな絵を描く。似ているかどうかより、コミュニケーションが形になる体験は、描く側と描かれる側お互いに楽しい思い出を刻みます。

 さらに『Fukuoka Art Book Expo』での作品展示とグッズ販売や、『ふくおか県芸術文化祭』における「ふくおかるた」の制作・実施も、自分たちの作品がどう受け止められ、愛されるのかを肌で感じる貴重な機会となりました。

 イラストレーションには、言葉では伝えきれない思いや情報を、視覚的にわかりやすく親しみをもって届ける力があります。デザインに大切なのは「3H(Head、Hand、Heart)」、つまり「アイデアと技術とココロ」です。学生にはまず手書きの温かさと難しさを学び、体験を生かして新たな表現方法を探る力を身につけてほしい。私自身、趣味のゴスペルから得た「調和」というインスピレーションを作品にしましたが、それはゴスペルへのラブレターだと思っています。趣味での出会いや発見も、表現の幅を広げ、続けていく原動力になりますね。

今後の活動・目標について

放課後プロジェクト「あとで」の可能性と
「3H」から生まれる新しい表現の追求

 授業とは別に、学年を超えた放課後プロジェクトチーム「あとで(Art & Design)」を主導し、学内外のイベントやプロジェクトに参加しています。学生たちには「研究と制作は大学の中で、表現を広めるのは外で」と伝えているんです。活動を通じて少しずつ積極的になっていく学生がいたり、イベント展示をきっかけに企業の内定を頂いた学生もいて、「あとで」の可能性は無限に広がっていると実感します。
 2025年は『Art Book Expo』が初めて韓国・プサンで開催され、学生たちと海を渡って参加して来ました。韓国や台湾ではアートイベントが盛んなので、今後は文化体験や情報交換をもっと活発にし、九産大の芸術学部について海外の方にもっと知ってもらいたい。そして仲間が増え、地域の活性化にもつながるとうれしいですね。将来的には、教育や地域活動の場において、子どもから高齢者まで誰もが直感で理解し合い、参加できるような環境づくりに貢献したいと考えています。
 私の大きな夢は、九産大主催の「福岡イラストレーション・フェア」を開催すること。私自身も新たな表現を追求しつつ、イラストレーションを通じて人と人の心の交流を生み出す場をつくる。そんな楽しい未来を、学生たちと共に実現できたらと思っています。

  • Q.趣味はなんですか?
    ゴスペル、映画鑑賞、写真
    ゴスペル・クワイアに美術部があり、チャリティ活動も行なっています
  • Q.好きな食べ物は?
    激辛肉と麺料理
  • Q.今、興味・関心があることは?
    ゴスペル・クワイアでの活動やイベントで歌ったときの気持ちを、作品制作に生かすこと
  • Q. 座右の銘を教えてください
    上手に描く必要はない!楽しくやり続ける!
  • Q.「九産大生」の印象は?
    新しい世界へ向かって一歩ずつ進む人々