子どもたちが健やかな人生を送るためには、発達に合わせた体の動きが必要不可欠。近年の早期教育の危うさや環境づくりの大切さを説く鐘ヶ江教授の、「生きる力」を育むための取り組みとは何か。国内外における研究活動についてお話を聞きました。
鐘ヶ江教授のこれまで
自然の中で遊んだ子ども時代
体育授業の大切さに気づき研究の道へ
子どもの頃、放課後の遊び場といえば運動場と近所の川や森でした。スポーツクラブなどない時代、夕暮れまで自然の中を駆け回っていた記憶があります。小学6年生の夏、ミュンヘンオリンピックでバレーボール日本男子の金メダルに魅了され、中学ではバレー部に入部。その後高校、大学と10年間熱中しました。
教師だった両親への憧れもあってか、教育系大学へ進学。体育科教育学研究室3年の時、現職の先生方との研究会への参加をきっかけに、小中学校の体育の授業研究に興味を持ち、大学院へ進みました。
現在は「幼児教育における体育実践」を研究テーマの一つとしています。現場の保育者の方々との対話で痛感するのは、子どもの思いが反映されず「大人の論理」が先立つ現状。そのしわ寄せは、「育ちそびれ」となって現れてしまうのです。「子どもが子どもらしく成長する」ために、大人が環境を整える大切さを伝えています。
もう一つの研究テーマは、カンボジアでの「国際教育協力」です。2011年に研究会活動の一環で北部の農村部を訪れた際、内戦の影響が教育に色濃く残っているのを感じ、有志と共に『SPLEA』※を結成し、現地に学校体育を広める活動を開始しました。「すべての子どもに行き届いた教育を通して貧困の撲滅を」。日本でも世界でも、子どもたちの健康で豊かな未来への願いは同じだと感じています。
※『SPLEA』(the Association of Sports and Physical Literacy Education for All:すべての子どもたちにスポーツと身体的リテラシーを届けよう)…全国の学生ボランティアと大学教員からなる団体
研究について
子どもを育む環境づくりと
カンボジアでの草の根活動
子どもには本来、自分で成長しようとする力が備わっています。大人はその発達に寄り添うことが大切です。しかし近年、何でも早くできるように急がせる傾向があり、ハイハイを飛ばしてつかまり立ちさせたり、園の特色として過度にスポーツ教育を打ち出したりなど、大人の論理が先立つ場面が目立ちます。
また「三間(空間・時間・仲間)の喪失」による影響も深刻です。体を動かす機会が減り、転びやすい、疲れやすい、あるいは感情のコントロールや友達とのコミュニケーションが苦手という子どもが増えている現実。習い事などで運動する子どもがいる一方、家庭環境による体験格差から二極化が進む懸念もあります。乳幼児期の発達に応じた体の動きは、食欲や睡眠、脳の成長を促すため、運動の得意・不得意ではなく、危険を回避して健康に「生きる力」そのものに影響するのです。
私が保育現場に提案しているのは「あそびごころを育てる保育」です。例えば、跳び箱を山のように積むのではなくバラして置いてみると、子どもたちはさまざまなみたてあそびを工夫します。そうした中で高い所に上り下りしたり、体を支える方法を身につけていきます。また、広告紙で紙でっぽうを作れば、大きな音を出そうと腕の下ろし方を工夫する中で自然と「投げる」動作が身につくのです。大人の役割は、特定の動きを先に教えるのではなく、柔軟な発想で子どものあそびごころに火をつけ、焦らずに成長を見守ること。保育者や学生にも、伝承あそびなどをヒントに、その役割を共有しています。
この「生きる力」を支える取り組みは、カンボジアでの教育支援活動の核でもあります。世界中で「スポーツを通じた開発」への関心が高まる中、カンボジアでも2009年に筑波大学などの協力で体育授業が採用されました。しかし、未だに道具や施設もなく、先生たちに指導法も行き渡らないままの地域が少なくありません。私が携わるSPLEAでは、現地で対話を重ねてニーズを汲み取り、運動会の実施や体育授業の提案、物資支援を行なっています。まず子どもたちに体を動かす楽しさを知ってもらう。それがやがて人や社会とのつながりを強め、将来の可能性を広げ、貧困から逃れることにもつながると信じて、「生きる力」を育みたい。参加する学生たちにも、授業では学べない体験をしてほしいと思っています。
今後の活動・目標について
現場に赴き寄り添いながら
世界の貧困問題と向き合う
子どもが子どもらしく生きる、つまり発達に合ったスピードで成長するためには、支える大人にも心の余裕が必要です。しかし、1980年代から指摘されている保育士の負担増加や保護者のワンオペ育児など、日本の社会構造的な問題が改善されておらず、もどかしさを感じます。だからこそ私は、実践研究や研修の場に赴き、保育士や保護者の悩みと喜びに寄り添って、元気に保育に取り組める環境づくりを支えていきたいのです。
学生たちにも、現場に足を運び自ら課題を見つけるよう伝えています。実際に、障がい児のきょうだいの葛藤や児童養護施設から自立する10代の悩みと向き合った学生もおり、さまざまな経験を経て志す道を決めています。
国際教育協力においても大切なのは、現地の声を聞くことです。対等な関係で援助を行い、横の広がりや自主的に取り組むプロセスを支える。こうした草の根の活動により、政策や組織的支援が行き届かない地域にも効果が出始めています。しかし、世界には貧困による育児放棄や児童労働、5秒に一人、栄養不足で子どもが亡くなるという深刻な現実があり、日本も決して例外ではありません。それらを解決する一つの鍵が、子どもたちの「生きる力」を育むこと。学生たちもそれぞれの形で活動に参加しており、将来どんな職業に就いても、この課題に関心を持ち続けてほしいと願っています。
-
-
- Q.趣味はなんですか?
- 神社仏閣めぐり
関西にいた学生時代から続けていて、旅行や出張時には
御朱印帳を持参しています
-
- Q.好きな食べ物は?
- 蕎麦
お気に入りのお店がいくつかあり、休日のランチによく食べます
-
- Q.今、興味・関心があることは?
- 「力の支配」を誇示する世界の動き
長年の努力で築かれてきた、法の支配や権利が蔑ろにされ、子どもなどの「弱者」に
しわ寄せが行くことに憤りを感じます -
- Q.座右の銘を教えてください
- みんなちがって、みんないい
-
- Q.「九産大生」の印象は?
- おおらか 柔軟にアプローチする
-
子どもたちが
飢えない社会をつくる -
九州の農業を
ロボットの力で支える -
海洋プラスチックについて考える
”きっかけ”を与えたい -
写真を通じて
人と場所のつながりを探求する -
食の安全・安心を追究し、
食品ロスを減らしていきたい -
新しい冷媒技術で
未来の人類を救いたい -
快適で健康的な
居住環境をデザインする -
スポーツを続ける
「明確な効果」を広めたい -
個人が、楽しみながら
「水害対策」を行う時代に -
ラーメン店のおいしさを
お土産品でも再現したい -
日本の観光を
もっとおもしろく変えていく -
暮らしも人間性も豊かになる
「言語学」の魅力 -
「工作」と「遊び」の力で
地域の課題を解決したい -
新興国の経済研究で
日本の経済を輝かせる -
九州から世界への挑戦を
研究を通して応援したい -
ICTを活用し
地域の公共交通の利便性を
高めたい -
子どもたちの生きる力を育み
世界から貧困をなくしたい -
イラストレーションの力で
人と人の心の交流をつくりたい -
建築の可能性を追求し
100年後の文化として残したい