建築の可能性を追求し100年後の文化として残したい
矢作 昌生 教授
建築都市工学部 建築学科

 一級建築士として多様な建築を手掛けながら、個性が失われつつある日本の風景に危機感を覚えるという矢作教授。自然エネルギーを生かして、心地良く、100年使い続けられる設計とは何かを追求するその建築思想についてお話を聞きました。

矢作教授のこれまで

「時空を超える建築」を志した学生時代
「積み木の家」で感じた可能性

 大学2年生の時、スペインでサグラダ・ファミリアを見て受けた衝撃。100年経って、ガウディ亡き後もその遺志が受け継がれ、世界中の人を惹きつける荘厳な姿に「建築は時空を超える」と感じました。それが私の人生観を変え、建築家を志した原点です。
 一方で、幼少期から26歳まで暮らした東京では、住んでいた家も友達の家も消え、残っているのは道路だけ。そんな中で私が「帰って来た」と実感できるのは、生まれる前からある代々木体育館の周辺なんです。ファッションのように建て替えが進み、同じような建物が並ぶ日本に危機感を抱いています。
 その後、アメリカへの留学を経て1997年に自分の設計事務所を設立し、2011年に九産大に着任しました。建築家という立場で、歴史を踏まえつつ現代にあるべき建築を模索するのは、自然な流れだったのだと思います。
 着任直前に起きた東日本大震災では、居ても立ってもいられず現地に赴き、「積み木の家」を提案。500世帯が集う集会所のために、500本の木材にメッセージを記してもらいました。特別な技術がなくても、強固な造りで、人の心の拠り所をつくれる。建築の可能性と、柔軟な思考の大切さを再確認する貴重な経験となり、今も私の建築思想に息づいています。

教授のプロジェクトについて

アナログとデジタルを横断する大切さ
100年愛され続ける建築を目指して

 建築には「用・強・美(使いやすさ、強さ、美しさ)」が必要だと紀元前から言われています。九産大建築学科4年間のカリキュラムは、アナログとデジタルの横断を核に据えており、手を動かして感覚を磨くことと、パソコンの中での立体化を同時に行うことで、見た目の良さだけでなく、自由な発想で温かみのある設計を目指します。
 私は、建築とは「人間が自然とそこにいたくなるような場所」をつくることだと考えています。建築教育では、図書館や美術館といった「機能」で建築を捉えがちですが、長い時間の中で機能は変わる可能性があります。例えばロンドンの美術館テート・モダンは、かつて火力発電所だった建物を改修したもの。歴史的な構造を残しながら、機能が変わっても人々が集う場所として愛され続けているのです。私が設計した建築も、最初とは違う使い方をしているものがいくつもあります。建築のサスティナビリティとはそういうことだと思います。
 日本の住宅寿命は30年と言われますが、100年もてば、その土地の財産となり、人々の愛着や記憶となって心の豊かさを育みます。ただ強固なものをつくっても、風景を壊していたり、そこに人がいないのであれば意味がない。かつて日本の多くの家にあった、気候風土を生かす知恵に、現代的な技術を組み合わせた「パッシブデザイン」は、豊かさを実現するための一つの方法です。建築家には、機能だけではなく、建築を文化や資産として捉える社会的責任があるのだと、学生に伝えています。

【先生の設計例】

イチマイノイエ(グッドデザイン賞受賞、デダロミノセ国際建築賞受賞〈イタリア〉)
沖縄のレディースクリニック(グッドデザイン賞受賞)
小さな積み木の家 ー東日本大震災支援プロジェクトー(グッドデザイン賞受賞)
津屋崎海岸のスタジオハウス

 建築学科の中で卒業後に設計へ進む学生は1割程度ですが、3年時に意匠・構造・環境設備の分野を超えたチームで、実際の土地を設定したプロジェクトに取り組みます。また、20年以上続けている日韓の大学合同ワークショップでは、多様な背景や視点で議論を行います。さらにアドバンストプログラムとして取り組んでいる「ABC建築道場」でも、授業を超えて積極的にコンペに挑戦し、学内外で何度も発表することにより自身のレベルや評価を知る機会を得ています。
 一番大事なのは、結果以上に、議論を通じて自分の中での思想と評価軸を作ること。将来、どんなクライアントと向き合っても、ぶれない設計思想の基礎を学生のうちから築いてほしいというのが私の願いです。

学生たちの設計作品

今後の活動・目標について

建築の楽しさを伝え続けて
第一線で活躍できる建築家を育てたい

 私が学生時代にサグラダ・ファミリアと出会ったように、学生たちにはまず世界中の建築を見てほしいと願っています。例えば同じアメリカでも、東側と西側では建築思想が違いますし、イタリアのロッジア(開廊)のように、エネルギー効率を高めつつ人が集う場所になる空間もある。その土地ごとにどんな建築がスペシャルなものとして長く愛されているのかを、肌で感じてもらいたいのです。
 留学したいと言う学生も多くいます。彼らは、一生の時間軸の中で、建築を通してどう社会貢献できるかを自分で考え、卒業後の道を選んでいます。勉強を続けるか、修行に出るか、企業に入るのか、信念を持って進めるよう、いっしょに議論を重ねていきたいですね。
 私自身が設計において大事にしているのは、時間軸をまず100年に設定することです。風景の一部となって時を刻むような建築をつくり、自分が生きていない次の時代へ文化としてつなぎたい。骨董のように、経年変化した古いものにしかない価値は絶対にあるのです。私はそれを「古美る(ふるびる)」と言っています。建築家は50歳で新人と言われるくらい息の長い仕事なので、これからも建築をつくり続け、その魅力と楽しさを若い人たちに伝えていきたいと思っています。たとえ建築家にならなくても、旅先で建築の歴史や「なぜそこにあるのか」がわかれば、それだけでも人生は楽しいものになるはずです。

  • Q.趣味はなんですか?
    車。旧車が好きで3台持っています。やっぱり古いものが好きです。
    猫(にからむこと)、旅行(建築めぐり)、映画鑑賞(英語力維持のため)、
    野球観戦(ドラゴンズとドジャースのファン。
    野茂選手がいた頃、球団ファンクラブに入っていました)
  • Q.好きな食べ物は?
    メキシカンフード、コロナビール
  • Q.今、興味・関心があることは?
    世界中に建築を観に行きたい。いつか購入したいと夢見ている3つの旧車があります。
  • Q.座右の銘を教えてください
    継続は力なり
  • Q.「九産大生」の印象は?
    ダイヤの原石。自分に期待して自分を磨き続けましょう!