2005年。私は、同僚の平井氏から声を掛けられた。
 「三坂さん(森川の旧姓)、ホームページ見たよ。催眠療法の、面白かったよ。でさあ、僕も探してみたらさ、福岡にもあるって知っとった?」
 県南の久留米市は、私が2003年に、九州には無いと思い込んで行った関東に比べれば、ありがたい近さだ。
 平「それでね、この前行ってきたんよ。良かったよ。すごく丁寧にしてくれたし。三坂さんも行ったらいいよ。ロングセッションで、7時間。」
 森「えー7時間!」(注:カウンセリングは1回につき1時間、催眠は長くても3時間までのところが多い)
 平「やけんね、一日で、過去生退行までするとよ」
 森「マジ!!どんなやったと」
 なんでも、古代のヨーロッパで、村を守るために村人を移住させ、長生きして妻子に看取られて死んだ村長だったらしい。
 森「ふーん、いいやん‥‥。で、どうやったと、その人生は」
 平「死ぬときに、『やるだけのことはやった』と思った人生だったみたいね。」
 森「え、普通過去生って、もっとさ、これを学んだなあとか、これをし残したなあっていう後悔があって、それで今世生まれてきました、みたいな話になるっちゃないと?」
 平「うん、やけんね、そこの先生は、『過去生って言ってもいっぱいあるから、もっと他の前世を見たら、またぜんぜん違う感じの前世が出てくるかも』って言ってたね。」
 森「そうやろ、『やるだけのことはやった』ってさ、そういう前世、催眠の体験談とかで、あんまり聞かんよ。」
 平「自分としてもね、今世なんで生まれてきたのかなーってのは分からんかったね。そこは心残りやね」
 森「まったくねえ。平井くん今世の課題無しってやつ?。そんなふうやけんハッピーマンとか言われるったい。」
 横に居た別の先生曰く、「平井先生。天国で働きが悪くて、ちょっと行ってらっしゃいって、(地上に)降ろされたんじゃないですか?」
 森「あ、この世に自薦じゃなくて他薦で生まれたってやつ?‥。クククク」
 平「もー、ひどーい!」
 ああ、この善良な、どこまでも善良な平井氏を、なぜ私たちは時としていじってしまうのだろう。
 平「とにかく、興味あるんなら、過去生退行はお勧めよ。自己概念が広がるよ。今の自分が体験していないことまで、自分、って感じになるけん。」 

 「自己概念が広がる」。その言葉に惹かれた私は、教えられたとおりにHPを探す。すると意外にも男性セラピストの顔写真。平井氏があんまり、優しいとか丁寧とか言うので、私はすっかり女性セラピストだと思い込んでいた。面食らいながら、とりあえず予約のメールを入れる。

 折り返し、予約確認の電話がかかってきた。「フォレストの陣野です。」
 電話の印象は、根拠はないのだが、「怖い」と感じた。
 輪郭の極めてはっきりした、バスクラリネットのような声。
 会話のテンポが揺るがない。
 
 ‥なんか、こう、見透かされそう、というか‥。

 いや、それならそれで、いいではないか。
 それの何を私は怖いと感じているのか。
 
 私は、自分の中に何か、「やましさ」のようなものを感じはじめていた。
 すべては、すでに、始まっていた。

 一抹の不安を抱きながら、2005年9月20日、私は久留米へと向かう。
 その流れは、花咲か爺さんに似ていた。
   平井氏は、あんなにいい人だから、いい過去生を見た。
   じゃあ、私は‥?
 平井氏を(いつもではないが、時として)いじめている邪悪な森川の、行く末は如何に‥。

 私は、インターホンを押した。





☆ 催眠療法体験記(3) 序

☆ 催眠療法体験記(3) 主訴

☆ 催眠療法体験記(3) #1

☆ 催眠療法体験記(3) #2−1

☆ 催眠療法体験記(3) #2−2

☆ 催眠療法体験記(3) その後

☆ 催眠療法体験記(3) #3

☆ 催眠療法体験記(3) #4−1

☆ 催眠療法体験記(3) #4−2

☆ 催眠療法体験記(3) 結





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