(場面6)
30代後半。別の生き方を知るために、奥さんと子どもを捨てて、東へと旅に出て、一人で歩いている。
(場面7)
50代。どこかは分からないが、インドのようにも思われる。緑、池、豊かな自然の中に一人で居る。やっと平穏が訪れた。
(場面8)
60歳ぐらい。先の池のほとりにいるが、洞穴に閉じこもっている。どこに居ても、人々の、「殺してほしい」という念を空気の中に感じてしまう。逃れたくて閉じこもっている。
(場面9)
63歳ぐらい。内臓が悪いようだ。やっと死ねる、と感じる。息を引き取る。上から眺める緑の森。こんなに美しかったのだな、と感じる。
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thは、奥さんのところに行くようにと誘導した。
(場面10)
魂になった自分がその国に戻ると、もう、その仕事をしている人は居ない。奥さんは一人、椅子に座って物思いに沈んでいる。息子は、幼い頃に自分の力を試したいばかりに、自分で自分に技をかけ、技が命中して亡くなっていた。それを境に奥さんも仕事をやめた。
thの誘導で、奥さんを抱きしめ、一緒に天に昇るところをイメージした。
thは、こういうことになった発端の場面に行こう、と誘導した。
(場面11)
若いお父さん、お母さんは、自分が生まれたことを手放しで喜んでいる。自分が1、2歳の頃、ひとりの薄気味悪い婆さんが、自分を「その仕事」にスカウトしに来る。年齢的にもちょうどよいから、という理由。この国では断れないことになっている。お父さん、お母さんは絶望に沈みながら「この、初めての子どもは、あきらめよう」と考える。
th「あなたはどう思っている?」
森「むしろ乗り気です。悲しんではお父さん、お母さんをかえって辛くさせるし、そんなに強く自分が望まれるんだったら、何か意義があるだろう。と思っています。」
さて、これからその人生をやり直すということだろう。thは、その人生での私の加害者性を取り上げ始めた。
th「あなたは、人々のある側面だけを見て、自分本位の判断で殺した。殺された人にも人生があり、家族があったでしょう。」
殺した人をあの世で集めて、自分と奥さんとで謝罪するように、とthは誘導した。(注:あとで聞いたところによると、こういう場合は自分の中に、自分のしたこと自体の否定的な影響だけでなく、相手から受けた否定的な影響も残るものなので、相手との和解を行うプロセスによって、両者を同時に開放するとのことだ。)
(場面12)
何十人かの人を前にする。とはいえ、皆、あの世に来ても首がない状態だから、その人達の思いが分からない。
森「単純に、首を探してきてつければいい、というものでもないです。私がほんとうに謝罪する気でなければ、謝罪は意味がありません」。もともと、その人達に対する恨みもなく、その人生も今も知らないので、謝罪の気持ちが出てこない。
「そんな殺し方をして」と、thは私の責任に目を向けさせた。
thが、「殺された人たち」の家族を登場させると、家族は口々に「いい人だったのよ」とわめいた。家族たちには、素直に謝罪する気になれた。
thは、その中の一人と向き合うよう誘導した。
(場面13)
自分が8歳の頃、最初に殺した男性。盗人。その日、奥さんと3人の子どもは、何も知らずに、食卓を囲み、お父さんに感謝している。家族にとってはいいお父さんだった。
急死したことを知り、悲しむ家族たち。
thの誘導で、その場面に自分が出て行き、家族になじられ、謝罪する。男の首をもとに戻し、男と手を握り合った。
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さて、そもそもそのような人生になった理由があるのではとthは想定したようで、別の人生が出てくることを暗に含んだ教示で私を誘導しようとしたが、私が休憩が欲しいといったので、その日は、それで終わりにすることになった。
4時間近い時間が経っており、辺りは、すっかり暗くなっていた。
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thは、私が休憩を欲しいといわなければまだ続けるつもりだったらしい。もともとthはそういうスタイルで、なるべく1日で終わらせるようにし、大部分の人が1日で終わるという。
「もう一回来る?」thは、メモした紙に目を落としながら言った。「だって、重いでしょ、これ。」
森「そうなんですか。」前世に、重い・軽いがあるらしい。
th「ふつうはね、被害者的な前世が出てくるんだよね。『こうされた、ああされた』ってね。そのほうが楽だからね。被害者としての前世がいっぱい続く人は、そういう目にあう発端で、なにかひどいことをしでかしてたりして、何回目かのセッションでそれが出てくることがあるけどね。あなたの場合は最初から加害者としての前世が出てて。奥さんだったあなたの方は、まだいまひとつ謝罪する気になれてないみたいだよね?。素直に謝れないっていうのは、他の人生で、被害者としてうんとひどい目に遭っていてその影響があるんじゃないかな。」
そっちの体験を見ていくほうが怖いと思った。
thはまた、こんなことも言った。「あなたは加害者の気持ちが、良く分かるでしょう。」
森「そうですね」。認めざるを得なかった。
現場さえあれば、私は、加害者更正の仕事に、向いているかもしれなかった。
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これから帰る私をクールダウンさせるためか、thは、1時間ぐらい、居間で話をした。
スピリチュアリティの世界の話だった。
あと数年、ほんの数年のあいだに、地球は大きく変わる。
th「じゃないと、こんなにたくさんの人が、こういうところ(催眠)に来て、前世をいくつも思い出すわけがないよ。前世の記憶は、産まれる前に、容易には思い出せないようにしてきているからね。前世の記憶や人生の目的を簡単に思い出してしまうと、今の人生をしっかり体験できなくなってしまうからね。しかし今、こういうところに来て、いろいろな前世を思い出すってことは、多くの人にとって、今世の人生が、人間最後。集大成ということだよ。」
森「はあ、そういうものですか。」
th「そういう変動期にあるから、地球は人気があって、他の星からも希望が殺到して、たくさんの人が地球に生まれてきてる。そしてね、10人に1人ぐらいは、他の人を助けるために来てるみたい。」
私は、ふと、平井氏のことを思った。
th「地球そのものがレベルを上げている。それに人類全体がついていけるかどうかだよ。中にはついていけない人も出てくるかもしれない。今の状況だと2人に1人はついていけないかもね。」
森「人類の発展はどういうものですか」
thは、「”私”、”あなた”の世界じゃなく、”私たち”の感覚になる。感情が、言葉を使わなくても伝わる。そうなるとね、強い否定的な感情を持っている人を、世の中においておけなくなるでしょ。」と、図を描きながら説明してくれた。
そういう方向性に進化するのだろうな、ということは、納得できる気がした。
森「発展に置いていかれた人はどうなるのですか」
th「もっと低い次元の星に生れ変わるだろうね。」
森「あ、私そっちがいいです。」よその星の生命体がどのような体感なのか。強い興味を感じた。
thは一瞬動きを止めてこっちを見たあと、「今のこの世だって苦でしょ、そうでしょ?」と詰め寄った。
下等なレベルに落ちてでも目新しい体験をしたい、といいたげな私に、thはあきれたのか、「サービスしすぎてるかな。」と言った。今日一日こんな奴につきあったのか、と思ったのかもしれない。
さいごに、「きちんと終わるためのハグ」を受けたあと、私は、thのルームをあとにした。
空気を読み取っていくときの感覚が残っていて、その後2日間、私は、高揚感に陶酔していた。
☆ 催眠療法体験記(3) 序
☆ 催眠療法体験記(3) 主訴
☆ 催眠療法体験記(3) #1
☆ 催眠療法体験記(3) #2−1
☆ 催眠療法体験記(3) #2−2
☆ 催眠療法体験記(3) その後
☆ 催眠療法体験記(3) #3
☆ 催眠療法体験記(3) #4−1
☆ 催眠療法体験記(3) #4−2
☆ 催眠療法体験記(3) 結

催眠療法体験記(3)
#2-2