後藤
濱さんは、九芸で専攻は何だったんだんですか?
濱
油彩です。デザインではなかったんです。
後藤
私もグラフィックデザインではなくテキスタイルでした。
濱
美術からデザイナーに進む人って多いですよね。
後藤
そうなんです。美術系に進んだら就職に不利って思っている人が多いのですが、実はあまり関係ないんですよね。
濱
そう思います。
後藤
織物の会社に就職してテキスタイルデザインをやっていて本当に楽しかったんです。職人さん的な仕事は一生モノだと思っていました。何が楽しかったかというと紙の上で図案を考えることでした。それでグラフィックデザインにも興味が出てきて。出来上がりが早く見られるじゃないですか。織物は完成までに時間がかかるし(笑)。
濱
私は小さな頃からファッションやジュエリーが大好きだったのでずっとデザイナーになりたいと思っていました。教職も取りましたが、ジュエリー関係の会社に就職しました。独立してジュエリーデザイナーをやっていましたが、既製服だとジュエリーが映えないことが多いんです。だったら自分で服も作っちゃえと思いたち、最近はジュエリーもファッションもデザインするようになりました。うちの店でジュエリーを製作する職人さんは、九芸の美術家の先輩でもあるんですよ。
後藤
今、私が学生に強く言っていることは、論理的思考を持って、コンセプトをキチンと立てなさいということなんです。
濱
そうですね。モノづくりは自分の感性だけで完結するのではなく、そのストーリーをクライアントに説明する必要があるので、論理的思考を持つことはとても大切なことだと思います。0から1を作り出す仕事なので、そこにはコンセプトが必ず必要になってきますね。
後藤
とは言え、感性もちゃんと磨いておくことが必要です。
濱
おっしゃる通りです。感性を磨いておくと論理的思考も自然と身についてくると思います。
後藤
学生時代に身につけたことが、今のお仕事に役立っていることはありますか?
濱
学生時代にひたすら絵を描き続けてきたことですね。私はお客様のお望みのジュエリーのイメージをその場でスケッチしてご提案します。こんな石や宝石を使ってこんなデザインでいかがでしょうか、という風にその場で決めてしまうんです。そうするとお客様にその場で作る喜びを共有することができます。私のデザインでお客様にときめいていただくことが大事。やはりデッサン力を身につけていたことが役立っています。
後藤
私たちグラフィックデザインの分野でも、クライアントと打合せをしながら頭のなかでイメージが出来上がっていることが多いですね。その場ではクライアントにはもったいぶって言いませんけど(笑)。
濱
やっぱりデザインするためのデッサンって大切ですよね。
後藤
デザインは描くことではなくて考える事。学生には入学してからもデッサンだけは続けるよう指導しています。
後藤
学生時代の思い出って何が思い浮かびますか?私はテキスタイルの恩師に言われた印象的な言葉があるんです。
濱
何ですか?
後藤
“作品は垢抜けていないとダメ”と言われたことです。その時はあまり理解できなかったんですが(笑)、つまり本質がちゃんと活かされてる、余計なものを削ぎ落とし本質だけが抽出されたデザインをしなさい、ということなんですね。その教えを、今私は学生たちに伝えています。
濱
私はひたすら作品に向き合ったことですね。油彩をはじめ銅版画、リトグラフなどいろいろやりましたが、すべて情熱を持って取り組みました。今日一日力を尽くしてやればバタって倒れちゃってもいいんじゃないか、みたいな気持ちで。とにかくエネルギーに溢れていました。
後藤
学生時代って、そういうことができるんですよね。
濱
やりたいことが好きなだけやれる時間があるのが、学生時代ですね。
後藤
最後に九芸を目指す学生にアドバイスをお願いします。
濱
あまり偉そうなことは言えませんが、未来から今を考える力を養って欲しいと思います。将来こんなことをしたいから今何をすべきかを考えて行動していただきたいですね。
後藤
想像力ですね。それと人とのコミュニケーションも大事ですね。人生のターニングポイントでは必ず出会いがありますから。
濱
自分のやることに信念を持つことも大事ですね。
後藤
“好き”というのは、デザイナーみんながもっている才能ですね。
濱
デザイナーは好きだから続けられる幸せな職業ですよね。
後藤
本日はありがとうございました。
濱
こちらこそありがとうございました。
左)『木洩れ陽』(2009年) 右)JR博多駅筑紫口・壁面モニュメント「博多駅出会い献上」