快適で健康的な居住環境をデザインする
香川 治美 教授
建築都市工学部 住居・インテリア学科

 時代の変化に合わせて、私たちが毎日長い時間を過ごす空間をより良いものに進化させるための設計を学ぶ、住居・インテリア学科。少し先の未来と今をつなぎながら、「責任ある設計ができる人を育てたい」という香川教授にインタビューしました。

香川教授のこれまで

研究に悩んだ学生時代
ようやく分かった自分の役割

 両親によると、子どもの頃から学校で教わるのが好きだったようで、まだ入園していない保育園に毎日通って、工作までしていたそうです。いまだに楽しく「学校」に通っているので、家族は呆れています(笑)。大学で居住環境について学び始めて大学院へ進んだのですが、その頃は、自分の研究と実社会のつながりがよく分からないままでした。大学院修了後は小倉南区のまちづくり推進課での勤務を経て、熊本県立大学で助手として働くことに。そこで出会った教授の「大学は、10年15年先のことを研究して、社会に還元する役割がある」という言葉をきっかけに、「自分が研究に取り組む意義」が理解できたように思いました。その言葉は、今でも私の大切な指針になっています。

教授のプロジェクトについて

安全で目的に合った“香り”を
設計に取り入れるために

 居住環境(住まいやオフィスなど私たちをとりまく環境)は、気候変動や生活・働き方の多様化に合わせて、快適に過ごせる空間に進化させていかなければいけません。ただ、快適さの感じ方は人それぞれなので、設計者は居住環境についてあらゆる角度から考えることが求められています。その一つの要素が「香り」です。香りは目に見えませんが場の印象を左右し、居心地や体調に影響します。香りを適正に使い、快適で健康的な居住環境を適切に設計デザインするためにはどうしたらよいのかと考えたのが、研究のスタートでした。
 しかし調べてみると、香りを適正に設計に用いる方法、つまり工学的な知見はまだ十分揃っているとはいえない状況でした。そこで私は自然由来の化学物質が入っていない「精油」の香りを研究対象とし、その香りを付加した空間が人に与える影響を、環境工学、心理学、生命科学、医工学、運動生理学、臨床化学といった多岐にわたる学問的手法を用いて実験的に総合評価する研究を行っています。研究成果は、精油の香りを科学的根拠に基づき安全かつ効果的に利用し、快適で健康的な居住環境を設計するための基礎資料となります。

 香りは大脳辺縁系を刺激するため、人に与える影響が大きく、「香害」という言葉もあるように、しっかりとしたエビデンスに基づいて、目的に合った香りを使わないと、かえって健康を害する可能性もあります。
 近年「バイオフィリックデザイン」に注目が集まっています。空間に自然の要素を取り入れると、ストレスが軽くなり、幸福感や創造性も上がるという効果がわかったんです。人にどう影響するのか、20年前に所属していた大学の研究室では測れませんでしたが、今は脳波で調べられるようになりました。自然由来の精油も、もっとエビデンスが揃えば、住まいだけでなくオフィスや病院など多様な空間の設計に生かせると期待しています。

「香り」に限らず、多様な角度から居住環境を研究する香川研究室
「音」を可視化する騒音計を使った研究も

今後の活動・目標について

自分で考え、責任を持って
設計できる人材を育てる

 設計者には、エビデンスを基に、人がそこにいるだけで環境に配慮しながら、何だか健康で快適だなと感じられるような空間をつくる責任があります。それができる人を育てるのが大学の役目であり、学生にも教員に疑問をぶつけながら、自分で答えを見つけてほしいのです。
 設計に係る要素は床、壁、窓の種類、湿度、気流、音、屋外の空気や太陽、などその他にもたくさんあり、それらが人にどう影響するのかまで考える必要があります。それらの要素の数理をきちんと整理・予測しシミュレーションした上で設計する、ということを学生には研究を通して身につけてほしいと思っています。

研究室の扉に飾っている季節のポストカード
個室ブースでもあり実験室でもあるHACOCE(ハコス)

 私自身、学生時代は研究室で設計における緑化を学んでいましたが、当時はその研究と実社会とがどう結びつくのかよく分かっていませんでした。ところが、数年経ってアクロス福岡のような緑化を実装した建築物を目にして「このことか!」と。恩師の研究はまさに30年先の未来に向けた還元だったと理解できました。次は私が、これまでの研究をさらに深めながら、先人を超えられる何かを見つけたいと考えています。そして、次は私から学生に、未来を見据えた研究も必要だよとバトンタッチしたいと思っています。

自分で考え、責任をもって設計できる人材を育てたい
  • Q.趣味はなんですか?
    季節や風土に合うものを楽しむ、良い仲間
    花、食べ物、風景、レジャーなど。
    海水浴には毎年行きます
  • Q.好きな食べ物は?
    ふぐさし、日本酒
    毎年、誕生日プレゼントはふぐさしです
  • Q.今、興味・関心があることは?
    これと決めず、何にでも興味・関心をもちたいです

九州産業大学公式YouTubeチャンネル

段ボールベッドの居心地に関する実験研究