VOICEライブ体験記(1)−吉祥寺ストリート−
催眠療法体験記
 2002年6月21日(金)夜19:30。小雨。東京は広い。吉祥寺商店街のアーケードにやっとこさ到着する。ファンの人が「カメラ持ってる?ライブの前後に写真撮らせてもらえるよ」。そういうことまでさせてくれるのか、と驚いていると、まもなく、リードヴォーカルの「ヨッチ(芳彦)さん」という人が、ギターケースを抱えてやって来る。想像していたよりもはるかに小柄だ。というか、なぜ私は大柄な人を想像していたのだろう。えらく若い。とても40歳近くには見えない。かっこよく痩せている。これがミュージシャンというものなのか。
 労働歌としての「ながら聴き」だったとは言え、何年も聴いていたCDの曲を、作曲し、歌った人がそこに居る。そう思うと畏れ多くて仕方がない。私が「おお〜、おお〜」と独り言を言っていると、ファンの人が私を前に連れて行く。

ヨ「九州のどこ?鹿児島?」
私「福岡です」
ヨ「え、南九州じゃないの!?。もしかして俺らのライブ、今が初めて?」
私「そうです」

 すると「ヨッチさん」という人は、あからさまに意外そうな表情をした。「ライブも聴いたことがないのに気に入ってわざわざ来てくれるなんてどういうわけ?」、と顔に書いてある。CDだけ聴いてストリートに来るというのは、そんなに驚くべきことなんだろうか。と言うことは、この人はもしかして、
CDよりもライブの方に格段の自信があるのではないだろうか。そんなふうに私は想像した。「ヨッチさん」は私に、どうやってVOICEのことを知ったのかとたずねた。私は気まずくなるのを恐れつつも、中古CDで買ったことを話した。ヨッチさんは驚きも怒りもせず、そのまま「ふ〜ん」と聞いた。どうも「ヨッチさん」というのは、かなり「素」な感じで、誰とでもすっと話せそうな人だ。

 20:00前、もう一人、同じ背格好の人がギターケースを持って来る。ハーモニーの「ヒデ(秀彦)さん」という人だ。短い髪の毛を白く脱色していて、ひと目で、ただものではないことが分かる。さすがミュージシャンだ。ただし頭髪がどんなに違っていても、双子というだけあって「ヨッチさん」に似ている。
 「ヒデさん」は「ヨッチさん」と顔を見合わせながら、
ヒ「あー、福岡かあ!。福岡は俺たち、どーゆうわけか、あんまり評判良くなくてねえ。お呼びがかからないんだよね。」
 この人もだ。この人達はこんなに率直でいいんだろうか。
 どうも、「福岡には嫌いで行ってないわけじゃないんだ」というつもりで言ってくれているらしい。
 そしてヒデさんは私に、初めて聴くライブがストリートというのは、ざわざわしてききにくいだろうから気の毒だなあ、悪いねえ、という意味のことを言った。ヒデさんは、(作詞の人だからという先入観で見るからかもしれないが)、細やかで優しそうな感じの人だ。





 程なくチューニングが始まり、ファンたちが二人を取り囲む。私の面倒みてくれていたファンの人が、「もっと前で聴いたら、ほら、あそこ」と指をさす。見ると、最前列に一人分、立つ場所が開いている。もしかしたら、遠方から来た私のために、ファンの人たちが場所を開けてくれたのかもしれない。そこは一種の特等席らしく、ヴォーカルの「ヨッチさん」のどまん前だった。押し出してもらって、感謝しながらそこに立った。





 一曲目、バラードの「STATION」、二人の声が、とても柔らかい。なんだかすごい。ライブの滑り出しでもあるし、曲の性質もあって、すうっと軽く歌っているように見えるのに、わけわからない迫力を伴っている。マイク無しなのに、プロの歌手の声というのはこんなに大きくて、芯がしっかりしているものなのか。感心しているうちに曲が終わる。

 ヨッチさんがみんなに「リクエストありますか」と呼びかける。気後れしていると、声が上がらないのを見たヨッチさんは「ア、そ〜オですか。」と拗ねてみせる。そしてヒデさんにたしなめられている。気をつかって呼びかけてくれたのかな?言うだけ言えばよかったなー。3rdアルバムに入ってるRainって曲をリクエストしたかったんだけど。なんせこんな「参加型」のライブとは予想していなかったので心の準備が‥^^;。





 二曲目「眠らない鼓動」、初めて聴くかっこいい曲だ。埃交じりの風みたいな響き。ミディアムテンポで、誘うようなリズム。楽しくなってくる。いっぺんで好きになる(注:この曲はシングルとしてCD店で購入できる)。
 取り囲む人が増えて通行人が道を通りにくいということで、二人が「みんなもっと前に来てー」と呼びかける。「もっと前、もっと前」。私の立っているところは、ギターを弾くヨッチさんの
腕まで30cmというところまで来てしまった。「そうそう、そのくらい前」。

 三曲目「空気だけがカラッポで」。今度は、初冬の乾いた風みたいな声になっている。曲が変わるとこんなにも声が変わるのか。これが生演奏というものか。ところで、この位置だと視線はどこに向けていたらいいのだろう。
なんせ腕まで30cmだ。目の前で、ヨッチさんの陽に焼けた腕が激しく上下し、細かくリズムを刻んでいる。ギターが楽器として体を開き切り、気持ちよく鳴り響いている。ちょっと視線を上げると、全身全霊で歌っている顔がある。迫力ありすぎて、直視できない。目を閉じたって、この人の発している「気」の「気圧」がすごくて圧倒される。
 私は次第に身に詰まされ、自分の仕事のことを思った。手を抜いてきたわけではないけれど、こんなに一瞬一瞬、大事にして魂を込めてきただろうか。






 四曲目「さよなら星屑」は、かなりゆっくりしたバラードだ。アーケード特有の音の響き方もあるのだろうが、目を閉じるとプラネタリウムにいるみたいで、混じりあった音が天井で響いている。切々とした愛の歌。こうゆっくりした曲だと、手に取るように分かる。ヨッチさんは、一言一言の中で、歌い方や声の響きを、微妙に、そして時には大幅に変えている。強く押し寄せたり、かすれさせたり、甘く響かせたり、ぐっと押し込めたりで、100通りぐらい声がある。ハーモニーの「ヒデさん」にもまた、そのくらいの声がある。長年の役割分担のせいか、二人の声はけっこう違っている。ヨッチさんがフリューゲルホルンなら、ヒデさんはトランペット、っていうぐらい違う。ヒデさんの声は、ヨッチさんよりも軽くて明るい。声の立ち上がりがはっきりしていて、高音が澄んでいる。空または水を感じさせる。でもやはりヨッチさんの声によく似ている。そういうヒデさんの声のせいで、ヨッチさんの声が200通りぐらいになったような錯覚が訪れる。ヒデさんはたいてい、ヨッチさんにぴったり合わせて重ねているが、時々、計算してなのか自然になのか、別のニュアンスで入ってくる。すると、まるで主人公のもう一つの心が、もっと激しく泣いているように聴こえたり、はたまた、天からの声がふわっと包み込んで慰めているように聴こえたりする。





 で、「なんか今とんでもないものを聴いているのではなかろうか」などと、私の頭の実況中継画面に字が流れる。これは私の癖で、新奇な事態に遭遇すると、その現象を言葉にすべく脳が勝手に回転していくのだ。そんな中、「24時間の神話、聴いてください」、と、五曲目が始まる。ヨッチさんが、静かに歌いはじめる。泣ききったあと乾いたっていうような声。なるほど、こんな声で歌うのか。その時、ヒデさんの「もっと‥」という声がする。グラスの中で氷が「カラン」と鳴ったような、はっとするほどクリアな声が、すぐに柔らかく響きを変えて重なる。まるで、どうしようもなく晴れ渡った空のもと、「好きなんだからしょうがないよ」、と、主人公のもう一つの声が言い切っているような響き。今まで見たことの無いぐらいの高い空。ここで私は
完全に持ってかれてしまった。あとの記憶がない。あとはもう、「ああすごい、ああすごい」と思うばかりだった。

 最後の曲の、「空に投げかけた夢を忘れない」、ハモリ続ける声が響き合って遠くまで届いていく、その道筋を耳で追いながら、ただ、二人のパワーをできるだけたくさん浴びて帰って、そしてそのパワーを何らかの形に変換して、私がこれから会う人たちに還元したい。と、願った。





 と、こんなVOICEストリートライブでした。しばらくは、つい「は〜、すごいものを聴いた」と、口から出てしまいそうでした(笑)。どんな領域でも、ベテランってのはすごいもので。そんな人たちのマイク無しの声を聴けて、貴重な体験でした。 
 現在は場所の関係で「吉祥寺アーケード」でのライブは行っていないそうですが、「井の頭公園」でのストリートライブは行われています。

 で、私は、二人から「ストリートだけってのは気の毒だね」といわれたのが気になっていたので、その後、北九州市で行われたライブハウスでのライブにも行ってみることにしたのでした。
 そんなこんなで、何回か生で「24時間の神話」を聴きましたが、聴く時々によって、空の見え方はいろいろで、なぜか、上空に嵐の予感があるような「24時間の神話」もありました(それはそれで良かった)。不思議です。こういうのは、歌う方のその日のイメージと、聞く方のその日の要因の、どちらが効いているんでしょうかね。




↑左がヨッチさんで、右がヒデさん。
写真の掲載については、VOICEのお二人の許可をいただいています。



 この日、右も左も分かりませんでしたので、たいへんお世話になった方のファンサイトは、http://f1.aaa.livedoor.jp/~snowsnow/です。写真やライブレポがたくさんあります。





☆ VOICE体験記(2)へ続く
☆ VOICE体験記トップに戻る


フォーカシング
気まぐれ日記
学生ラボ
自己紹介・研究
LINK
TOP
授業・試験
何でも体験記