

世界中で問題となっている「食品ロス」。食の安全・安心への関心も高まっている今、日本の食品業界と協力して解決策を見つけ出す研究を続けている中山教授。医療や他の分野にも生かせるという、九産大独自の研究について話を聞きました。
中山教授のこれまで
微生物と歩んできた日々から
食の安全を守るための研究へ
昆虫採集が大好きな子どもだったのですが、そのうち目に見えない小さな微生物にも興味がわき、大学ではいろいろな微生物に触れながら、納豆の発酵について研究するようになりました。大学卒業後就職し、アミノ酸発酵の研究に携わった後、「食べることが好き」というのもあって食品を開発する部門に配属されたんです。そこで微生物による食品汚染事故を経験したことをきっかけに、「汚染を防ぐ研究がしたい」と考えるようになりました。微生物の知識とノウハウ、知識を身につけていくうちに、今度はそれを「誰かに伝えたい」という想いに。その結果、九産大に教員として着任しました。
九産大にはMALDI-TOF MS(マルディートフマス、以下マルディー)という機械があります。これはあらかじめ組み込まれたデータベースと照合することで、菌の「種類」を特定することができるという機械。主に病院での研究に使われていたのですが、「食品にも応用できるのでは?」と考えたのが研究のスタートでした。
人の命に関わるところでも役立ちたい
食品ロスの削減を合言葉に
業界全体で研究に取り組む
これまで、廃棄量を少なくするために「消費・賞味期限を延ばして事故を防ごう」と各企業や団体が、それぞれ研究に取り組んできました。食品に影響を及ぼす菌の種類を特定(菌種同定)するために、マルディーを採用する企業も出てきましたが、もともと入っているデータベースが病院向けだということもあり、食品分野ではうまくいかず頭を抱えていたそうです。そこで、それぞれの企業が持っているデータを共有し、「食品向けのデータベースを一緒につくろう」と食品会社を中心とした団体でコンソーシムを結成。普段は味やアイデアで競い合いながらも、「食の安全」については競争せず、協力して解決を目指しています。
私の研究室では、食品に混入する菌の種類を遺伝子解析で明らかにして、マルディーのデータベースに加えています。データベースを充実させることで、一つの製品に影響する菌の種類や由来が簡単にわかり、問題が起きても早く対処法を見つけられるだけでなく、事前に問題を防ぐのにも役立ちます。
また、菌種同定よりさらに詳しい「菌株識別」という技術にも取り組んでいます。マルディーを使って菌の個体を見極める(人で言うと個人を特定する)九産大独自の研究で、病院での院内感染の解明に活用できればと考え、他学部の教員とソフトウェアを開発中です。今は食品産業を中心に研究していますが、人の命に関わるところでも役に立てたらと思っています。



今後の活動・目標について
独自の技術を向上させて
他分野にも生かしたい
コンソーシアムの取り組みによって、酵母や細菌の同定技術はかなり確立してきました。ただ、カビはいろいろ形を変えるので難しい。メンバーと一緒にあれこれ試していくなか、どんな形でも同定できる可能性が少し見えてきたので、ぜひ確立させたいと考えています。
マルディーは、専門的な技術がなくても簡単に扱えるので、食品の工場などでも菌種同定ができるのが魅力。研究を始めた頃、入ったばかりの学生が2、3日で同定できたのを見て、「これはいい!」と感じたんです。今後、このマルディーの技術がもっと知られて広がっていけば、食品や医療分野だけでなく、発酵工業や植物育成など他の分野にも活用できると想像しています。

学生にはこういった研究や学会でのプレゼンテーションを通して、自分で考える力を身につけてほしい。研究者でも技術者でも通用する人材を育てることが、私の一番大事な役割だと思っています。一緒に研究しながら、お互いに高め合っていきたいですね。

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- Q.趣味はなんですか?
- テニス、読書(ハードボイルド小説)
主人公が一人でコツコツと自分の道を歩いていくところに憧れます -
- Q.好きな食べ物は?
- 焼肉、ジェラート、牧のうどん
ずんだシェイクは、宇都宮にいた頃ハマって以来好きです -
- Q.今、興味・関心があることは?
- マルディーを広く知ってもらうにはどうしたらいいか