

地球温暖化が世界的な問題になり始めてから約30年。実は私たちの身の回りにあふれる家電製品に温暖化を加速させないための技術革新が行われていました。気体の状態変化と向き合い続け、冷媒のISO規格も作ったという赤坂教授に話を聞きます。
赤坂教授のこれまで
気体の状態変化の面白さを追求し
たどりついた冷媒の研究
小学校の理科の実験で見た液化窒素が面白くて、液化ガスを積んだタンクローリーを見るとワクワクするような子どもでした。気体が液体に変わることに神秘的なものを感じていたんです。大学は機械工学科に入り、熱力学の研究室(「蒸気研究室」)を希望したところ、苦手な人が多い分野なので周りから「変わってるな」と言われたのを覚えています(笑)。
研究室は、当時まだ貴重だったコンピュータが割と自由に使える環境でした。プログラミングを始めてみたらハマってしまい、自分に合ってるなと実感したんです。大学院修了後、工業ガスメーカーに就職してプラント事業に携わり、また博士課程に戻って研究員を経て大学教員になりました。そこからは、コンピュータでの計算に特化して、実験で測定を行うメンバーとグループを組んで研究してきました。
冷媒ガスの研究を始めたのは大学で教えるようになってから。冷媒の役割は、冷房時に熱を外に運び出し、暖房時には外の熱を中に運び込むこと。2010年頃、その冷媒が地球温暖化の原因(温室効果)の一つとして世界で大きく問題となり、周囲からの要請もあって、温室効果の低い冷媒の開発に深く関わることになったのです。
教授のプロジェクトについて
地球温暖化対策のために
温室効果の低い冷媒開発にむけて
20世紀の家庭用冷蔵庫に使われていた冷媒は、温室効果が二酸化炭素(CO2)の2,000倍、カーエアコンの冷媒は10年ほど前まで1,300倍もありました。今では、温室効果がCO2と同じか数倍くらいのものに置き換わっていますが、実はこのカーエアコン用の新しい冷媒のISO規格(世界基準)は、私とアメリカの研究者が共同で作ったもの。計算式を作って正式に公開されるまで、5年ほどかかりました。
冷蔵庫も今やほとんどがノンフロン(温室効果が非常に高いフロンガスを使わない)。ただ、難しいのは家庭用エアコンなんです。各家庭でエアコンを設置してから、その場で冷媒ガスを充填するので、燃えたり爆発の危険がないものを使わないといけないし、入れる量も多い。そうなると、冷媒として使えるガスが限られてくるんですね。いま家庭用エアコンに広く使われている冷媒の温室効果は、CO2の600倍。世界的な取り決めによって、この先約20年で別のガスに置き換えていく必要があります。


私の研究では、エアコンや冷凍機に使われている冷媒というガスの物性(蒸気圧や密度、比熱など)を正確に計算できる「式」や「プログラム」を開発しています。新しい冷媒として使えるガスは、ほぼ見つけ尽くされています。これからは、これらを数種類を混ぜて開発していくのですが、実際に混ぜようとすると方法や割合がかなり複雑で、正確な物性を測るのは職人的な技術が必要なので、コンピュータで計算することができれば誰でも簡単に必要な値を知ることができます。
産業がある限り、最後に必ずCO2が出るので、完全に無くすことはできません。今の私たちの生活を大きく変えることは難しいし、温室効果の低い製品が出ても性能まで低くなったら困る。だからこそ冷媒を、技術革新と企業努力でもっと改善しなければと思っています。
今後の活動・目標について
新しい冷媒の普及で
未来の地球も住みやすく
学生たちにはいつも「未来の人類を救おう!」と言っています。日本の冷凍空調産業は世界でも競争力がとても高いので、日本の新しい技術で積極的に引っ張っていかねばなりません。それに今後、東南アジアやアフリカ、中南米にエアコンが普及し始めたら、ものすごく大きな市場になります。
今、新しい家庭用エアコン用の冷媒を開発するため、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の国家プロジェクトに参加しています。少しずつ可能性が見えてきたので、機器メーカーと協力してテスト用エアコンを作り、温室効果や性能を見極めているところです。うまくいけば、10年後くらいにこの冷媒を使ったエアコンが店頭に並ぶかもしれませんね。
地球環境問題に国境はありません。各国の研究者といっしょに世界共通の規格やソフトウェアを開発して、温室効果の低い冷媒を実用化したい。それは、未来の人たちに住みやすい地球環境を残すことにもつながると思うのです。

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- Q.趣味はなんですか?
- 鉄道
鈍行列車やローカル線に乗るのが好きです -
- Q.好きな食べ物は?
- 貝類とアルコール
あらゆる貝を食べますが、一度もあたったことはありません -
- Q.今、興味・関心があることは?
- 昭和からの乗り鉄としては、ローカル線が廃止されていくのが寂しいです