想定外にどう対処するか?

想定を超える大地震の時の橋の崩壊挙動を解明して人と暮らしの安全を目指す。

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建築都市工学部 都市デザイン工学科 奥村 徹 准教授 Toru Okumura
想定外の大地震による壊滅的な被害を回避したい。

2011年3月11日、巨大地震とそれに伴う津波が東北地方を襲った。
東北地方太平洋沖地震による津波は、各地の市町村に壊滅的な被害をもたらし、日本中に大きな衝撃を与えた。「甚大な津波被害と原発事故がきっかけとなり、想定外の事態にどう対処するか、という議論が活発になされるようになりました」と奥村准教授は語る。一般に、耐震設計は過去に経験した最大級の地震動をもとに行われる。しかし、これでは設計の想定を超える規模の地震が起きた場合に、致命的な被害を防ぐことは難しい。だからといって、過去の記録を上回る地震にも耐えられる基準を設定しても根本的な解決にはならない。また合理性を欠き、経済的にも現実的ではない。これを解決するためには、「想定外の地震が発生した場合でも、構造物がどのように崩壊するかを正確に予測し制御することで、壊滅的な被害を回避できるのではないか」と奥村准教授は考えている。

実験と精密な解析で橋が崩壊する過程を明らかに。

奥村准教授は、振動台を用いた加振実験と高精度の数値解析(シミュレーション)を行うことで、構造物がどのように崩壊するのかを明らかにし、まずはその予測手法を確立することを目指している。具体的には、特注の橋の一部を模した骨組み模型に対して強い地震動を加える実験を行い、崩壊するまでの詳細なデータを計測する。次にこの実験で得られた計測値を指標として、模型レベルでの数値解析を行い、その精度を検証する。十分な精度と信頼性があることを確認した上で、実際の橋を対象に、構造全体がどのように崩壊するかを、スーパーコンピュータを用いた大規模な数値解析で、明らかにしていくのだ。「信頼性の高いシミュレーション技術を確立できれば構造物の崩壊をコントロールするための技術開発に貢献できる。今はまだ道具(シミュレーション技術)を整備している段階です」と奥村准教授は語る。「最終的な目標は、想定外の地震によって構造物が崩壊し、人命を失うような最悪の事態を免れるための方策や設計法を構築することです。例えば、これは鉄道総合技術研究所で行われている研究ですが、もし高架橋が倒壊する場合に、居住地域に倒れるか、反対の空き地に倒れるかで被害は大きく異なる。事前に倒壊することも想定し、被害が少ない方に倒れるように誘導する装置を設けることで、人命の損失を回避し、構造物の復旧性を高めることが期待できます。」奥村准教授の研究は、まさに私たちの命と暮らしの安全に直結しているのだ。「土木は国民の理解と多くの人の協力を必要とする分野です。今取り組んでいる研究も社会の要請と価値観に沿ったかたちで、少しでも役に立てればと思っています。」

目前のことに全力投球。そこから世界が広がることもある。

「正直なところ、しっかりとした考えはなく漠然としたイメージのみで土木分野を選びました。大学入学後に土木には、構造力学、水理学、地盤工学、都市計画などの多くの専門分野があり、社会を支える重要な役割を担っていることを知り、次第に意欲と興味が湧いてきました。当時、阪神・淡路大震災が起きたことが耐震工学の分野に進んだきっかけですね。」と奥村准教授は振り返る。「高校生の皆さんへのアドバイスとしては、私の経験の範囲ですが、手の届かない遠くのものに憧れているだけではなく、まずは目の前のことに真剣に取り組んでみてはいかがでしょうか。そこから興味が湧くことや自分の適性を見いだすこともあると思います。今、手の届く範囲のことから少しずつ実績と信頼を築き上げてゆくことによって新たな分野や人とのつながりが生まれ、自分の世界も少しずつ広がっていくのではないでしょうか」。いつも世の中の問題点とその解決策を考えているという、奥村准教授ならではのアドバイスだ。

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