第6講 タッチタイピング


来居: 今まで、君は何回かタッチタイピングに挑戦したと言ったね。
真臼: うん、そうだよ。
来居: どうやって勉強したの?
真臼: いろんな方法を試した。
本屋でキーボードやタッチタイピングの練習法の本を数冊買ってきて、書いてあるとおりに練習したり、インターネットでタッチタイピング関係のホームページを探して、その説明を読んだりしたが、どれもうまくいかなかった。最近は、タイピング練習用のソフトもいくつか使ってみたが、やはりだめだった。
来居: へえ、けっこう努力したね。
真臼: 私だって、自分なりに努力したよ。しかし、ぜんぜんいい結果が出ない。
来居: 「いい結果」って、どんな結果なの?
真臼: 速くキーボードを打てることよ。
来居: 君の考え方は、よく言えばまだタッチタイピングの真意を理解してない、悪くいえば動機不純だね。
真臼: 動機不純って?
来居: 前回タッチタイプのメリットを話したが、それはいずれも結果であり、タッチタイプの基本はあくまでもキーボードを見ずに入力できることだ。
真臼: しかし、速く打てなければ意味がないじゃないの?
来居: それはいずれ結果として自然に現れてくるものだ。
真臼: 「速く打てる」という目標を持ってやった方が、やりがいも感じるし、より速く上達するんじゃないの。何かいけないことがあるの?
来居: いけないね。
一定の段階に達してからそういう目標を持つことはいいことだが、基本もできていないうちに「速く打とう」とばかり考えたら、焦りが出て、けっきょくいい結果につながらないんだ。
「速く打つ」ということでいえば、最初はタッチタイプよりも、いつもやっているように、キーボードを見ながら打った方が速い。君の場合、しばらく練習してもスピードが上がらないから、ついつい従来のやり方でするようになってしまうんだろう。それではいつまでも上達しないよ。
真臼: そんなところも関係があるんだね。
私の練習法には他にも何かいけないところがある?
来居: そうだね。
君はいろんな「練習法」を探してやってみたといったね。
真臼: そうだけど。
来居: はっきり言って、時間の無駄だ。
真臼: どうして?
何をやってもいい方法と悪い方法があるだろう。いい方法でやれば速く上達するんじゃない?
来居: そういう場合もあるが、タッチタイプに限っていえば、どの練習法も大した差がないはずだ。そういうところに時間を使うよりも、実際の練習に時間を使った方がいい。
真臼: 君のいうとおりかもしれないけど、まったく知識がなかったら練習がうまくいかないじゃないか。
来居: まあ、そういうことになるけど。
しかし、絶対必要な知識は、タイピング関係の本やホームページならどこにでも載っているはずだ。あれこれ読む必要はない。さらにいうならば、本の場合は最初の数ページ読めば十分だ。
真臼: その「絶対必要な知識」ってどんなものなの?教えてくれないか。
来居: 特別なことじゃないよ。君は今までにいろんな本やホームページを見たから、その知識で十分だ。私から教える必要はないはずだ。
真臼: 無責任だね。
確かにいろんな解説を読んだよ。自慢じゃないけど、けっこう知識や情報ももっているけど、逆にどこが大事かわからなくなっている。だから君のほうからもう一回大事なところを教えてほしい。
来居: そんなにいうなら、仕方がない。
ただし、大事なところだけいうから、わからないところは自分で調べて。
真臼: わかったよ。
来居: まあ、簡単にいえば、2点だけだ。
 (1)ホームポジションを守って、どのキーをどの指で打つかを正しく覚える。
 (2)文章を見て、キーの位置と使うべき指を考えながらゆっくり入力する。
真臼: それだけ?
せめて注意すべきところを教えてよ。
来居: (1)に関していえば、手はつねにホームポジションから離れないことだ。キーを打つとき、指一本だけ離れるが、すぐ元の位置に戻す。
(2)に関して、大事なことは、すぐキーボードを見ずに、しばらく考えて、頭の中でイメージすることだ。最初は、キーボードを見なければならないが、1時間ぐらい練習したら、後はキーボードを見ないようにする。
君の場合特に注意すべきことは、入力スピードを考えないことだ。焦りの気持ちが出たら、ついついキーボードを見たくなるから。キーボードを見る習慣を変えない限り、絶対上達できないんだ。
真臼: 君のいったとおりにするよ。
文章を見て入力するといったが、どんな文章がいいの?
来居: どんな文章でもかまわないが、漢字と平仮名中心の文章はやりやすいだろう。
真臼: ところで、こうやって練習して、どれぐらいの期間でタッチタイプができるようになるの?
来居: 個人差があるから一概にいえないが、毎日1〜2時間練習すれば、1ヶ月もあれば十分だろう。
真臼: 1ヶ月でできるようになるの?
どれぐらい速くなるの?
来居: また悪い癖が出た。すぐ入力スピードのことを言う。
1ヶ月で苦労せずにタッチタイプができるといっているんだ。
タッチタイプができたら、入力スピードは後から自然についてくるものだ。
真臼: わかったよ。とりあえず1ヶ月間入力スピードのことを考えないようにするよ。
ところで、最近のタイピング練習用のソフトはけっこうおもしろいけど、君はどう思う。
来居: 使ったことがないからわからない。
まあ、少し楽に練習できるかもしれないが、上達の速さでいえば、私にいわれたとおり、ただ文章をどんどん入力する方が速いだろう。
それに君の場合はとくに要注意だ。最初からそうやって楽な方法で練習しようと思ったら、どんどん楽な方向に行って、けっきょく挫折してしまうよ。苦労して覚えたものこそずっと残るんだよ。
真臼: 聞かなければよかった。
すぐ説教になっちゃう。
君も固いね。
来居: さあ、文句を言わずに、今からすぐ練習だ!
真臼: わかったよ。
次回はいつ会えるの?
来居: 一ヶ月後だ。
真臼: それまで何も教えてくれないの?
来居: 今の段階で教えるべきことは全部教えたから、後は自分でやるだけだ。
タッチタイピングができなければ、次のことを話しても無意味だ。
もちろん、質問があったら、聞きにくるのはかまわない。
真臼: じゃ、とりあえず一ヶ月後だね。