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ご意見・ご感想をお待ちしています。こちらへどうぞ。  okamura.t@ip.kyusan-u.ac.jp

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○国際的連関の視点から見るフィランスロピーの比較研究

概要(和文):

フィランスロピーは社会問題(特に弱者救済)を民間で自発的に解決する仕組みの一つで、世界に共通する自発的な公益活動であることが確認された。だが、具体的な様相は、文化的に近い英国と米国ではかなり類似しているが、欧州大陸では、スウェーデンを除き、ドイツ、フランスの実態は英国とは相当異なる。また、政治体制によって強い影響を受けるロシア、中国、インド、そして日本では其々独自の姿が見られる。

概要(英文):

One of the mechanisms that the social trouble (especially, relief for the weak) is voluntarily solved in the private organization [philanthropy], and a voluntary public-interest activity common to the world were confirmed. However, Sweden is excluded, and corresponding differs from Britain in the Continent as for the realities of Germany and France though it considerably resembles in near Britain and the United States as a concrete aspect is cultural. Moreover, the original appearance is seen in Russia, China, India, and Japan that receives the major impact by the political dispensation.

研究成果

(1) フィランスロピーは社会問題(特に弱者救済)を解決する仕組みの一つで、世界中に共通する自発的な公益活動であることが確認された。それは端的に言うと、持つ者から持たない者への、富の自発的な移譲であるだけではなく、持たない者同士の横の相互扶助関係をも含む概念である。 だが、その具体的な仕組みは各国で異なる。英国と米国の繋がりは密である。スウェーデンは英国との共通点が見られる。
   他方、ドイツやフランスの実態は相当異なる。ドイツでは、国家・公的なものとフィランスロピーの、二項対立ではなく、いわゆる社会国家の働きを無視できない。公私双方に目を配る必要がある。フランスでは協同組合的な連帯経済が目立つ。これらの国では、単に救済する立場(救済する権利)のみならず、救済される立場(救済される権利)が認知されている。
   ロシアでは政治体制の変化に左右されてきたが、特にポスト社会主義の体制では、資産家によるチャリティが復活してきている。中国・香港も経済的に成功した華人による活動が伝統となっている他、同族的な相互扶助、宗教的な救済も見られる。インドではフィランスロピーよりも、NGOと表現する方が適切である。特に海外からの支援、外地在住のインド人からの支援を抜きには語れない。
   日本では、市場重視の経済学との繋がりにおいてフィランスロピーが取り上げられてきた傾向がみられる。他方、歴史研究は個別研究に陥りがちであり、前者との交流が俟たれるとことである。以上の諸国では、権利意識が弱い。

(2)以上の研究から明らかになったフィランスロピーの特徴点をいくつか提起しておく。
   ①フィランスロピーは、政府による救済との連動を無視できない。歴史的に、両者は密接な相互影響の下で展開されてきた。
  ②フィランスロピーは封建的な共同体が解体されたのち、孤立した個人を救済する仕組みであるが、他方、近代社会が西欧とアジアでは異なるように、西欧とアジアではその姿は著しく異なる。特に後者では、キリスト教とは異なる儒教思想や、外国との関係を無視できない。
  ③フィランスロピーという言葉は、英米起源のものであり、欧州大陸やアジアではほとんど使われてこなかったものである。にもかかわらず、類似の活動は世界中に見られる。したがって、フィランスロピーという言葉に拘泥することなく、実態に即した調査・研究が求められる。
  ④フィランスロピーを「福祉の複合体」という視点からみると、多様な福祉活動の一つとして、フィランスロピーを位置づけることができる。つまり、「民間非営利の自発的な公益活動」は、「福祉社会」の重要な柱の一つであると確認することができる。

   以上に関しては、法政大学大原社会問題研究所雑誌の特集号(627号,2010.12、および、628号,2011.1)を参照。http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/index.html

2010第5回フィランスロピー研究会の予定 (福祉社会研究フォーラムとの合同開催)

なお、今回は、11月に行われます政治経済学・経済史学会大会パネルの準備研究会となります。

以上

○フィランスロピー研究会メンバー一覧

(2008-2010年)

以下の方々は、基盤研究(B)H20-22年度:課題番号20330040:「国際的連関の視点から見るフィランスロピーの比較研究---19世紀を中心にした歴史的・実証的研究---」に参加しているメンバーです。

研究代表者:岡村東洋光(九州産業大学)
「ジョージ・ピーボディーを起点とする、近代フィランスロピーの英・米における展開」
研究分担者:高田 実(下関市立大学)
「福祉の複合体視点からの相互扶助に関する英日相互比較~相互扶助と慈善、そして国家福祉の相互関係」
研究分担者:金澤周作(京都大学) 
「19世紀イギリスと'フィランスロピック・ツーリズム'」(英日米の交流と比較)
研究分担者:石原俊時(東京大) 
「スウェーデンにおける救貧と慈善の制度的特質の研究~Fredrika Bremerを中心に」
研究分担者:辻英史(法政大学)   
「社会改良運動とドイツ市民層の道徳意識とそのヨーロッパにおける位置づけ」
研究分担者:大杉由香(大東文化大学)
 「日本における相互扶助運動・組織の実証的研究~秋田県の感恩講の発展と西日本(岡山など)の救済システムとの比較研究」
研究分担者:中野智世(京都産業大学) 
「19世紀末から20世紀にかけて、ドイツ西部を舞台とする公衆衛生・保健事業の確立過程を、市民協会活動の組織化や活動内容を中心に明らかにする」
研究協力者:帆刈浩之(元・川村学園女子大学)
「英国と中国の文化的影響を反映した、英国植民地支配下の中国人慈善家の思想の特質と近代香港の慈善家の系譜の解明-植民地期香港における中国人慈善家の系譜-」

事務担当:岡村研究室;
電子メール:okamura.t@ip.kyusan-u.ac.jp
研究室直通電話:092-673-5217