

九州人が誇るとんこつラーメンのおいしさについて研究する米満先生をインタビュー。スープのメカニズムを明らかにし、「お店のおいしさを加工食品で再現したい」と語る先生に、特許につながった驚きの発見や今後の展望について話を聞きました。
米満教授のこれまで
某大手食品企業に34年勤務
海外でラーメン開発にも携わる
昔から食べることが大好きだったので、大学は農学部の食糧化学工学科に進学し、食品企業に就職しました。そこで商品開発や工場勤務を経験し、タイ、ポーランド、中国への赴任も経験しました。タイでラーメンの開発に携わっていた経験から、「ヨーロッパでもインスタントラーメンはきっと流行る」とポーランドでラーメン事業の立ち上げを行ったこともあります。34年間勤務してから2017(平成29)年に九産大に来て、食品加工学、食品開発論、食品製造実習、海外研修などを担当しています。例えば食品開発について指導をする際、企業勤めを経験してきた実務家教員として学生たちに伝えられるのは、開発の部分だけを担う場合でも、すべての流れを知っている必要があるということ。実際に畑に出かけて原材料を収穫したり、そこでの加工を経験したり、販売が決まったら、一緒に販売しに行く。そうしたバリューチェーン(日本語では「価値連鎖」のこと。原材料の調達から販売までの一連の流れの中で、それぞれの活動がどのように価値を生み出しているのかを分析するフレームワーク)を丸ごと体験させることは、実務家教員の特徴かもしれません。
人の命に関わるところでも役立ちたい
あの臭さの原因は微生物!?
特許につながった世界初の発見
もともとラーメンが大好きで、評判の良いお店を食べ歩いていました。でも、お店のレジに置いてあるお土産用のラーメンセットや空港などで見かけるご当地ラーメンは、そこそこおいしいもののお店の味・風味との差は歴然。その差をなくすことができれば、お店の評判も上がるし、そのお土産用ラーメンをつくっている九州のローカル食品会社の事業も拡大し、九州の食品産業の発展に貢献できるのではと考え、とんこつラーメンの研究をはじめることになりました。ラーメン本はたくさん出ていますが、そこでの表現は、常に主観的でアカデミックではありません。お店の味とお土産用の味に差があるということは、主観的ではなく、味をアカデミックに解析しなくてはいけないということなのです。そこで、スープに着目してその製法を明らかにし、再現を目指すことにしました。

まず着手したのは、ラーメンのスープを評価する用語を決めること。40近い評価項目を作成し、それぞれの定義を明確にすることで、それぞれのラーメン店のスープをデータ化できるようになりました。その上でさまざまなお店を食べ歩き、評価したデータをもとに実際に再現してみようとしたのですが、とんこつスープ特有の「酸臭・獣臭」のするラーメンがなかなかつくれませんでした。この風味のラーメンを出すお店には、創業以来継ぎ足されたスープが使われているといった特徴があったため、「もしかしたら微生物が関係しているのでは」と、生命科学科の中山先生にご協力いただき研究を重ねた結果、100℃近い高温でも活発に活動して増殖していく「古細菌」が関係していることがわかりました。これは世界初となる発見となったため、学会での発表や特許申請につながっています。
学生たちはデータを集めるためにラーメンを食べ歩いていますが、40近い評価項目をチェックしながら食べていると純粋においしさを楽しめないのでつらいでしょうね。スープをつくる炊き出し実験は、30分や1時間ごとにサンプリングをして細かく分析するので徹夜での作業なんです。簡易ベッドを実験室に持ち込んで、仮眠を取りながらスープと向き合っています。

今後の活動・目標について
お店の味とお土産用の加工品
2つの差を研究でなくしたい
現在、九州の食品メーカーさんと共同で特許取得や大量生産に向けて動いており、1~2年後には酸臭・獣臭を再現するポークエキスを開発し具体的な商品化を実現させたいと考えています。小さな鍋で実現しても、それを大量生産しようと思うと難しく、まだ試行錯誤を繰り返している段階です。早くお店の味を再現した、長期保存ができて安く買えるお土産用のラーメンをたくさんの方に楽しんでいただけるよう研究を進めていきます。 学生たちは一度失敗しただけで諦めてしまいがち。失敗を次への糧にし、それを繰り返すことで成功へと近づいていく。失敗なんて当たり前ということを学んでほしいなと思います。だって、私のこの研究はもう8年目なんですよ。学生たちに、何度失敗してもまだ世の中に知られていないことを明らかにしていくおもしろさを伝えていきたいです。

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- Q.趣味はなんですか?
- テニス、自転車、飲み歩き
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- Q.好きな食べ物は?
- なんでもおいしく食べることができる(ストライクゾーンが広い!)
「これはちょっと…」というものも繰り返し食べることで
おいしいと思えるようになる -
- Q.今、興味・関心があることは?
- ヨーロッパに行きたい
定年後、また海外で働くのもアリだと思っている