個人が、楽しみながら 「水害対策」を行う時代に
山下 三平 教授
建築都市工学部 都市デザイン工学科

 ゲリラ豪雨による水害が頻発する中、“庭づくり”を楽しみながら対策を行う「雨庭」がグリーンインフラのひとつとして注目されています。学生たちといっしょにキャンパス内の雨庭づくりとその研究に取り組む山下教授にお話を聞きました。

山下教授のこれまで

水害対策と生活の質の向上を
結びつける「雨庭研究」の道へ

 2009(平成21)年7月、豪雨によって福岡市内を流れる樋井川が氾濫し、大きな浸水被害が発生したのを覚えているでしょうか?近年、ゲリラ豪雨による水害が頻発し、その対策は重要で緊急性の高い人類的課題となっています。特に都市部では道路やビルが増え、降った雨がしみ込む場所が減少する中、下水管を大きくしたり、川の幅を広げるといった人工的で力ずくの対策ではとても間に合いません。そのため、降った雨を地面に浸透させたり、一時的に貯留させる場所をつくって雨水の流出抑制を行う動きが、グリーンインフラのひとつとして世界的に広がっています。
 福岡市は水循環都市を目指して対策を進めていますが、土地の多くは行政のものではなく民間人のもの。そこに住んでいる一人ひとりが意識を高めていかなくては限界が来てしまいます。そこで、建物の屋根やコンクリート道路など水がしみ込まない場所に降った雨水を集めて一時的に貯めたり、ゆっくり地中にしみ込ませたりする比較的小規模な、植栽のある空間「雨庭」の研究と普及に取り組むようになりました。人類の未来を左右するとても重要な対策ですが、みんなが参加しやすく楽しめるものでないと長続きしません。庭づくりなら楽しさと気軽さがあり、育てていくやりがいが生まれるのも魅力。私は学生時代から自然と人間の望ましい関係を追求する研究に取り組んできたため、「雨庭研究」は水害対策と生活の質の向上を結びつける道だと考え取り組んでいます。

教授のプロジェクトについて

歴史ある京都の禅寺をヒントに
キャンパス内で雨庭を作り育む

 雨庭の研究のため、大学職員や学生たち、地域の方々にもご協力いただきキャンパス内に雨庭をつくりました。ヒントにしたのは京都の禅寺の庭園。雨が降っても庭園に水があふれない秘密が枯山水にあると考え、研究を積み重ね生まれたキャンパス雨庭は、2022(令和4)年11月に完成。禅寺で悟りなどを表す「円相」という形がモチーフになっているため、屋上から見るとまるで生物の細胞のように見えることから「CELL(セル)」と名づけました。造成面積は正方形に近い約42㎡ですが、隣接する校舎に降った雨水の一部が流れ込む仕組みになっていて、集水域はその約5倍の196㎡。研究結果によると1時間あたり4ミリ程度のスピードで地中にしみ込んでいくようになっています。

キャンパス内の雨庭「CELL」

 雨庭研究を一緒に行っているのは、雨庭を通した世界を学ぶ学生によって結成された「あめにわがかり」のメンバーたち。週に1度、彼らと一緒にお昼ごはんを食べながら雨庭普及の作戦を練ったり、CELLの手入れを行ったりしています。「あめにわがかり」は誰でも参加することができるので、ゼミ生ではない学生が参加したり、よく来る他大学の学生がいたりするのもおもしろいところ。全員が楽しみながら参加しているというのが良いですよね。それが大事だと思っています。CELLに植えた植物が育つことで景観や雨庭としての機能が良くなると、学生たちも、よりやりがいを感じる様子。これからもCELLを通して自然の営みに触れながら、いろいろなことを感じてほしいですね。

今後の活動・目標について

未来をつくる若い世代に
自分の足で立つ術を伝えたい

 学生たちは、雨庭の活動を通して東京で開催された「グリーンインフラ産業展」のポスター展示に挑戦したり、地域のさまざまな活動に参加したりと、九州大学や京都大学など関西や関東の大学とも共同研究を行い、たくさんの人との交流をしています。そうした経験を積んでもらえるよう、これからも学生と深く広く関わっていきたいですね。
 水害のことだけでなく、戦争や物価の上昇など、世界は大変危機的な状況にあり、学生たちはそうした中で生きています。その日々をただやり過ごすだけでなく、どう生きていくのか。それを学生が自ら考え、答えを出せる人間になるための手助けができたらというのが私の思いです。知識を伝えるだけならインターネットやAIで十分。それと同じことを教師がするのは時代遅れも甚だしい。これからを生きる若い人たちが自分の足で立っていくために、何を見て、聞いて、理解していけば良いのかを示していけたらと思っています。

積極的に参加してくれるゼミ生や同学部教員と私
  • Q.趣味はなんですか?
    ギターの弾き語り
    中でもビートルズの「Blackbird」がお気に入り
    ほかには、ロック、クラシック、ジャズの鑑賞や読書も
  • Q.好きな食べ物は?
    チョコレート、いちごのショートケーキ、
    トアルコ・トラジャコーヒー、新鮮な白身魚の刺身
  • Q.今、興味・関心があることは?
    世界平和、循環社会の回復、自己成立の根底